ぼくの家にはオーディオコンポがない。 昔風に言えば、ステレオがないのだ。 いや、厳密に言えばあるのだが、7,8年ほど前に壊れて、そのままになっている。 そのため、CDはカーステレオかパソコンで聴いている。 カーステレオはともかく、パソコンで聴くCDなんて味気ないものである。 モニターに内蔵されたスピーカーで聴くと音は悪い。 そこでヘッドホンを使っているのだが、ある程度以上の音域になると、音が割れてしまう。
例えば、『歌のおにいさん』で公開している歌は、編集の際にヘッドホンを通してしか聴いてないので、実際どういう音が出ているのかがわからない。 かといって、いちいちCDに焼き付けて、カーステレオで試聴する気も起こらない。 ということで、音が割れるところがあっても、「この歌はこういうもんだ」とか、「ステレオで聴けば、ちゃんとした音になっている」などとと決めつけて、そのまま上げることにしている。 もし、『歌のおにいさん』を聴いて、「何かこれ、音が悪いやん」と思っても、上のような理由があるので、勘弁してください。 しかし、ステレオがほしいなあ。
ところで、ぼくのような音楽好きな人間の家に、ステレオがないのも珍しい。 幼い頃、初めて買ったレコードである『スーダラ節』を聴いたのは電気蓄音機だった。 小4の時に買った『ヘイジュード』も、小5の時に買った一連のタイガースのレコードも、小6のの時に買った『嘆きのボイン』も、すべて電蓄で聴いたものだ。 中2の時に買った『木枯し紋次郎』の主題歌も、同じく電蓄で聴いた。 高校に入ってからは、吉田拓郎やボブ・ディランのレコードを買い漁るようになったのだが、その時も電蓄で聴いた。 そう、ぼくの家には、ぼくが就職するまで、電蓄しかなかったのだ。
友人たちの家には、けっこういいステレオが揃っていた。 その友人たちの家に遊びに行くたびに、指をくわえてステレオを眺めていたものだ。 「おい、このステレオ、いくらするん?」 「全部で40万円くらいやったねえ」 40万円である。 高校生の身分で買える代物ではない。 そして、「働きだしたら、絶対にいいステレオを揃えてやる」と思っていたのだった。
ということで、初給料で買ったものはステレオだった。 しかし、ステレオと言っても、手取り10万円そこそこしかない身分だったから、40万円もするような機種が買えるはずもない。 そのため、買ったものはラジカセに毛の生えたようなものだった。 いや、実際ラジカセだったのかもしれない。 なぜなら、レコードプレーヤーが付いてなかったからだ。 レコードプレーヤーを買い足したのは、それから1年後のことだった。
初めてちゃんとしたステレオを買ったのは、それからなおも時を経た、今から10年ほど前のことだった。 ソニー製の立派な作りのヤツで、音もまあまあだった。 ところが、それは2年も持たなかった フロントパネルにある液晶画面がつかなくなってしまったのだ。 そのため、今どんな作業をしているだとか、CDの何曲目を聴いているだとかがわからない。 まあ、聴けないこともなかったので、そのまま使っていたが、だんだん音すらも出てこなくなった。 その後、小振りのステレオを買ったのだが、すぐに人に売ってしまった。 で、今はというと、冒頭に書いたとおりで、壊れたステレオが部屋の一角を占めている。 きっとぼくは、ステレオに縁のない人間だったのだろう。
|