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2005年05月21日(土) おじちゃん(前)

ぼくに対してその言葉が初めて使われたのは、高校1年の夏休み、ちょうど横須賀の叔父の家に遊びに行っていた時のことだった。
当時叔父の家には風呂がなかった。
そのため、叔父の家に滞在中は毎日銭湯に通ったものだ。

そういうある日のことだった。
その日は叔母といっしょに銭湯に行っていた。
先にぼくが風呂から上がったようで、外に出てもまだ叔母の姿はなかった。
そこで叔母が上がってくるのを待っていたのだが、その時女湯の出入り口からから2,3歳の小さな女の子が出てきた。
出入り口の奥から「○○ちゃん、待ちなさい」という声が聞こえた。
その声の持ち主は、おそらくその子の母親のものだったろう。
しかし、女の子は言うことを聞かず、とことこと通りに向かって歩き出した。
ちょうどぼくの前にさしかかった時だった。
女の子はぼくの存在に気づいたようで、そこで立ち止まった。
そしてぼくのほうを見て、満面の笑みを浮かべ、その言葉を吐いた。
「おじちゃん」
高校1年とはいえ、誕生日が来ていなかったので、ぼくはまだ15歳だった。
いくら言葉の意味のわからない女の子が言ったとはいえ、その時のショックは大きかった。
ぼくは「おにいさんだろうが」と言おうとしたが、そのせいでぼくの口は開かなかったくらいだ。

さて、その後は「おじちゃん」などという忌まわしい言葉で呼ばれることは、ほとんどなくなった。
それは、頭が真っ白になった今でもそうだ。
まあ、たまにそう呼ぶ人がいないではないが、そういう人たちは、ぼくのことを何と呼んでいいかわからずに「おじちゃん」と呼んでいるのだと思う。
愛称として「おじちゃん」と呼ばれることは、まったくないのだから。

ちなみに戸籍上ぼくを「おじちゃん」と呼べる立場にある甥や姪が、ぼくのことを何と呼んでいるかというと、「しんにいちゃん」である。
2年前、うちに遊びに来た大学生の姪を連れて、近くの居酒屋に飲みに行ったことがある。
その時、たまたまその店に飲みに来ていたぼくの友人が、ぼくを見つけて声をかけた。
「しんた、今日は女子大生連れか」
「これは姪っ子」
「ああ、姪っ子か」
その後、その友人はぼくたちの席で飲み始めた。
ことあるたびに、姪をからかっていたが、姪のほうは軽くあしらっていた。
ぼくがトイレに立った時だった。
友人は姪に、「おじちゃんといっしょに飲んで楽しい?」と聞いたらしい。
その時姪は、キョトンとした顔をして「おじちゃんって誰ですか?」と聞き返したという。
姪はぼくが「おじちゃん」であるというのが、ピンと来なかったらしいのだ。


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