2005年05月20日(金) |
ストックホルム症候群? |
当初歯医者の先生が予定していた歯の治療が、今日で終わった。 治療した歯は19本、治療回数42回、そのために要した日数は何と172日だった。 前にも言ったが、こんなに長く一つの病院にかかったのは初めてである。 そのためなのか、今日で終わりと思うと、言いようのない寂しさが漂ってきた。 歯医者臭くない清々しい治療室、映画音楽を中心とした心地よいBGM、気取らない先生、愛想のいい看護婦、ロビーに置いてある数々のマンガ、そういったものと今日限りでお別れなのである。 今日は妙にセンチな気持ちで、治療を受けたものだった。
ところがである。 最後の歯を治療していた時、舌の左横に痛みが走った。 おかしいなと思い、その痛みの走る箇所をまさぐってみると、10数年前に治療していた歯が若干浮いているのがわかった。 痛みは、歯ぐきと銀冠の隙間に舌が引っかかることで起こっていたのだ。 以前なら、一刻も早く歯医者から解放されたいがために、そういうことは伏せておいただろう。 しかし、なぜか今回は「このチャンスを逃すことで、数年後その隙間に虫歯が出来、また痛い思いをするのも嫌だ」と思ったのだった。 そう考えたのは、「今日で終わりとは寂しすぎる」といったセンチな気分になっていたからでもあっただろう。
そこで先生に相談した。 「先生、一番奥の歯に隙間が出来ていて、そこに舌が挟まるんです」 「あ、そうですか」 そう言って、先生は例の編み棒みたいなヤツを、その部分に当て調べた。 「ああ、そうですねえ。若干だが浮いてきてますねえ」 「やり直したほうがいいでしょう?」とぼくが聞くと、「この部分のレントゲンを撮ってないから何とも言えないんですが、やったほうがいいでしょうね」と先生は言った。
そして最後の歯の治療を終えたあと、「じゃあ、今日その部分のレントゲン写真を撮っておきます。浮いたところを今の冠を利用して治すか、新たに冠を作るかは、次回判断することにしましょう」と言い、20回目のレントゲン写真を撮ることになった。 これだけレントゲンを撮っていると、こちらも要領を得てくる。 歯のレントゲンをとる場合、プラスチックの台座のようなものを噛まなくてはならない。 最初の頃は、それがうまく噛めず、上あごや歯ぐきに当たって痛い思いをしたものだった。 ところが何回かやっていくうちに、痛くない噛み方のコツというものがわかってきた。 それでも、二、三度自分で痛くないように噛み変えていたのだが、今日は何と一発でその噛み方を決めたのだ。 歯医者通いのベテランになったような気がして、なぜか気分がよかった。
さて、そういうことで、ぼくのは医者通いはもう少し伸びたのだった。 しかし、なぜセンチな気持ちになったのだろう。 もしかしたら、長い間人質に取られていると、犯人に同情や連帯感を抱いてしまう、いわゆるストックホルム症候群と同質の心理状態に自分が陥っているのかもしれない。 いや、こう言っては先生に失礼か。
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