2005年05月17日(火) |
アホバカ列伝 M子の彼氏(後) |
その後も彼氏は、M子を訪ねてやってきた。 しかし、それがあまりに頻繁なので、M子もだんだん嫌気が差してきたようだった。 そのうち、M子は彼氏が来ると隠れるようになった。 M子がいないのを見て、彼氏はぼくに「今日、M子は?」と聞いた。 「今日は休みですよ」 「休み?今日は仕事と言っていたんだけど…」 「気分が悪いんで休むと言って電話してきましたよ」 「ああ、そうですか。じゃあ、家に電話してみよう」 そう言って帰って行った。
彼氏が帰ったのを確認して、ぼくはM子を呼びに行った。 「おい、帰ったぞ」 「何か言ってた?」 「家に電話してみると言っていた」 「えっ、どうしよう…」 「病院に行っていたと言っとけ」 「ああ、そうやね。しかし、夜逢うようになっているのに、何で昼間来るんかねえ」 「それだけ好きなんやろ」 「私だんだん醒めてきた」 「そうやろうのう。こう毎日こられたらのう」 「うん。それにねえ、喫茶店辞めたんよ」 「え?今何しよるんか?」 「何もしてない」 「いい歳なんやろ?」 「うん。しんちゃんより一つ上」 当時ぼくは29歳だったから、彼氏は30歳ということになる。 「そうか、いよいよだめな男やのう」
それからしばらくして、M子は彼氏と別れてしまった。 もちろん、M子が彼氏の常識のなさに愛想を尽かしたのだ。 ところが、彼氏は常識のない男だったから、別れたあとも、会社にやってきたり、ネチネチ電話をかけてきたりした。 何度「もう来ないで」とか「もうかけんで」とか言っても、彼氏は聞こうとしない。
「あの男、何でまだくるんか?」 「わからん…」 「本当に別れたんか?」 「別れたよう」 「何と言って別れたんか」 「仕事に専念したいけ別れて…、って」 「そんなんじゃ納得せんやろ」 「そういうことはないと思うけど。ちゃんと泣いたよ」 「えっ、泣いたんか?」 「うん」 「あの男30歳やろ。ふつう泣くか?」 「でも泣いたもん」 「周りに人はおらんかったんか?」 「喫茶店やったけね。周りにお客さんがいっぱいおったよ」 「いい歳して、バカやのう」 「うん」 「でも、ああいう男は自分にいいようにしか受け取らんけのう。おそらく、まだ別れたとは思ってないんやろう」 「そうやろか?」 「おう。もういっぺんはっきりと別れると言ったほうがいいぞ」 「うん、わかった…」
ということで、M子はもう一度彼氏と会うことになった。 そして、そこではっきり「好きな人ができたけ、もうつきまとわんで」と言った。 彼氏は、ようやく自分がふられたということが理解できたらしい。 そしてまたしても、その場でシクシク泣きだしたという。 「好きな人」とは口実だったが、彼氏はバカなので、それを疑わなかったという。 それ以来、彼氏は会社に来ることも、電話をかけてくることもなくなった。
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