2005年05月16日(月) |
アホバカ列伝 M子の彼氏(前) |
前の会社にいた時、部下にM子という女の子がいた。 会社に入る前は、喫茶店でアルバイトをしていたという。 その関係で、そこの喫茶店の人たちがよくM子を訪ねてきていた。 その人たちの中にM子の彼氏もいた。 彼氏は、ヒョロっとして何か頼りなさそうな男で、どう見てもM子とは不釣り合いだった。 最初の頃は毎日来ていたものだ。 来ない時は電話がかかった。 M子の受け答えから察するに、どうもネチネチして煮え切らない男のような気がした。
ある日のことだった。 いつものように、仕事中に彼氏から電話があった。 ところが、その時はいつものネチネチ電話ではなかった。 M子は受話器を取ったとたん「えーっ!?うそー」と大声を上げて言った。 そして「どこで?…」「どうして?…」「大丈夫?…」「えっ、今から?どうしよう…」といった断片的な言葉がぼくの耳に入ってきた。 M子の言葉で、彼氏の身に何かあったらしいのはわかった。 そのうち、受話器を持つM子の腕は震えだし、顔はだんだん青ざめていった。
電話を切ったあと、そわそわしているM子に、ぼくは「どうしたんか?」と聞いてみた。 するとM子は、気が動転しているのか「車がね、彼氏がね、事故がね、彼氏がね…、車がね…、ああ、どうしよう」と、訳のわからないことを口走りだした。 おそらく自分の中でも、整理出来ていないのだろう。 このまま会社にいさせても仕事にならないと判断したぼくは、M子に「気になるなら行ってこい」と言った。 M子はその言葉を待っていたかのように、何も言わずに脱兎のごとく駆けて行った。
「もしかしたら、今日M子は帰ってこんかもしれん」 そう思っていた時だった。 M子が戻ってきた。 脱兎のごとく駆けて行ってから、2時間ほどが経過していた。 M子は売場に着くなり、「あーあ、あんなことなら行くんじゃなかった」と言った。
そこで、最初から話を聞いてみた。 彼氏が車で狭い道を走っている時、向こうから対向車が来た。 彼氏はそれを避けようとしてハンドルを切った。 ところが、運悪くそこに溝があり、タイヤがはまってしまった。 それが抜けなくて困った。 そこで彼氏はM子に電話した。 電話を受けたM子は、それを事故だと勘違いした。 というわけである。
だけど、どうして彼氏はM子に電話をしたのだろう? こういう時に、まず電話をかけるところは恋人のところではない。 そうJAFだ。 それはドライバーとしての常識である。 彼氏は、そういう常識を知らなかったらしい。 だから、M子の手を借り、二人で車を引き上げようという非常識なことを考えたのだ。 しかし、M子が来ても、二人ではどうすることも出来なかった。 結局、近くにいた数人の人たちに声をかけて、車を引き上げたのだという。
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