こうなれば善は急げだ。 さそっく行動に移した。 ぼくたちの距離は300メートルほど離れていた。 そこでダッシュで追いかけた。 その間、何と言おうかと考えていた。 が、何も思いつかなかい。 「こうなりゃ出たとこ勝負だ」と思った。 そして、Oさんに追いつくと、その肩を叩いた。 Oさんはぼくのほうを向いた。 何がなんだかわからない様子だった。 が、ぼくの顔を確認して、少しホッとしたような表情をした。 それを見てぼくは、「つき合って下さい」と言った。 Oさんは、別段驚いているふうでもなく、「突然そんなことを言われてもねえ…」と答えた。 ぼくは、そこから何と言っていいのかわからなくなった。
数秒の沈黙の後、Oさんが口を開いた。 「あなたいくつ?」 「今20歳やけど」 「何ね、年下やないね」 Oさんは、まったくぼくには興味がなかったようで、隣にいた女性Uさんと、顔を見合わせて笑っていた。 どうやら、これで断ってくれると確信したぼくは、「だめ…よね?」と念を押してみた。 するとOさんは、「友だちということではいけんの?」と言った。 「友だちか…」 「だめ?」 「いやいいけど」 「じゃあ、友だちやね。じゃあね」 そう言うと、Oさんはさっさと歩き出した。
その後ろをぼくは、ゆっくりと歩きながら、内心ホッとしていた。 予定通り断られたのだ。 元々好きでもなかった人だから、ふられても落ち込む必要がない。 これでKさんの執拗な攻撃を受けることはなくなるだろう。
しかし、どうして女は男をふる時に、『友だち』という言葉を使うのだろうか。 ぼくは、これまで何度かこの言葉に泣かされている。 彼女たちのいう『友だち』とは、いったい何なのだろう? どこまでが許されるのだろうか? 電話をかけてもいいのだろうか? 映画に誘ってもいいのだろうか? 食事に誘ってもいいのだろうか? そのへんがよくわからないのだ。 いや、もしかしたら、『友だち』と言っている本人にもわからないのではないか? ま、体のいい断り文句だと言えば、それまでだが。
では、もし彼女たちがOKする時、いったいどういう言葉を使って、男を受け入れるのだろうか? 「はい」のひと言だろうか? 涙の一つでも見せるのだろうか? それとももったいつけて、「考えさせて」などと言うのだろうか? ぼくにはうまくいった経験がないので、そのへんがよくわからない。
そう言うと、「嫁さんはどうだったんだ?」と聞く人も出てくるだろう。 嫁さんとは、帰る方向がいっしょだったため、いつも帰りがいっしょになった。 それがいつの間にか、つき合いに発展したものである。 だから、別に「つき合って」などということはなかったのだ。
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