もうすぐクリスマスというある日。 バイトが終わり、家に帰ろうとした時だった。 Kさんから呼び止められた。 「おい、いいかげんにOさんとカタを付けれ。このままでいいんか?」 「…うん」と、ぼくは気のない返事をした。 実は、ぼくはまだX子のことを悔やんでいたのだ。
そういう事情を知らないKさんには、ぼくに告白する勇気がないように見えたのだろう。 怒ったような、呆れたような口調でこう言った。 「本当におまえはだめやのう。おまえを見とるとイライラする。だめで元々やないか。男ならさっさと『つき合ってくれ』と言ってこい!」 「・・・」 「何ならおれが言うちゃろか?」 「そんなことせんでいい」 「それなら自分で言うてこい」 「…うん」 「いいか、男は押しぞ。押して落ちん女なんかおらん」 「そういうもんかねえ」 「おう。おれはいつもそうしてきた」 「ふーん」 「じゃあ、今日ちゃんと言えよ」 「・・・」 「明日、報告を待っとるけの」 「・・・」 「わかったか!」 「…うん」
後年、人にこの時の話をしたことがある。 それを聞いた人は、みな一様に「Kさんは後輩思いのいい人やったんやね」と言ったものだ。 確かに、Kさんは後輩思いのいい人だった。 しかし、それだけでぼくを焚きつけたのではなかった。 他に理由があったのだ。 しかし、その理由は、その時のぼくにはわからなかった。 おそらく、Kさんにもその理由はわからなかっただろう。 本人がわからないというのも変な話であるが、きっとわかっていなかったに違いない。 それは、Kさんの運命に関わりのあることだったからである。 そのことは、後で触れることになるだろう。
さて、困ったことになった。 Kさんに「うん」と言った手前、その日に言わなければならなくなった。 Oさんは、ぼくがKさんに捕まっている時に、会社を出ていた。 ぼくが会社を出ると、Oさんは遙か向こうを歩いていた。 人影がもう一つ見える。 おそらく、事務で働いている他の女性と帰っているのだろう。 ぼくは、どうしようかと迷った。 いっそ、「見失った」とKさんに報告しようかとも思った。 しかし、道は一本道である。 見失うはずがないのは、Kさんもよく知っている。 「どうしようか…」
しかし、言わないと、またKさんのしつこい攻撃が始まる。 いろいろ考えたあげく、一つの結論に達した。 それは、「ふられよう」ということだった。 元々、それほど好きでもなく、ましてやつき合いたいとも思ってなかったのだから、ふられたとしても、痛くも痒くもない。 相手には、ただの変な人と思わせておけばいいのだ。 その結論に達して、ぼくは気が楽になった。
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