前にも書いたが、ぼくはOさんのことを好きだったわけではない。 ただ、Kさんから「この会社の中では誰がいいか?」と聞かれたので、Oさんの名前をあげただけの話である。 実は、その頃ぼくには、気になっている女性がいたのだ。 それは井筒屋に実習にきている女子高生だった。 彼女は3年生だった。 当時ぼくは20歳にだったから、2つ年下ということになる。 つき合うとすれば、ちょうどいい年の差だ。
KさんからOさんとつきあえ、と言われた後のことだった。 そのKさんから意外な話を聞いた。 「おい、しんたは、女子高生が実習に来よるのを知っとるか」 「うん。時々ここに来るやん」 「おう。その中にX子という子がおるやろ」 「いや、名前までは知らんけど…。どの子かねえ?」 「一番背の高い子よ」 「ああ、あの子ね」 「それがの、あの子がおまえのことを好いとるみたいなんよ」 「えっ?」 一番背の高い子というのは、ぼくが気になっている女性だった。
「それでの、そのX子がおれに、『Kさん、しんたさんっているでしょう。あの人彼女とかいるんですか?』と聞いてきたんよ」 「えっ…。で、何と答えたと?」 「『あいつはだめ。他に好きな人がおるけ』と、ちゃんと言うといてやったぞ」 「えーっ!(『ちゃんと』って、そういうことは答えないでほしい)。それでどうなったと?」 「諦めたみたいぞ」 「・・・」 「おまえにはOさんがおるんやけ、女子高生なんかどうでもいいやろうが」 「・・・(どうでもよくない)」 「それよりも、Oさんのことはどうなったんか?もう言うたんか?」 「いいや、まだ」 「おまえ何しよるんか。早くせんと、このバイト終わってしまうぞ」 「…ああ」
ぼくはOさんのことは、もうどうでもよかったのだ。 それよりも、X子のことが悔やまれてならなかった。 しかし、「バイトが終わるまで、まだ時間はある。そこで訂正すればいい」と思い、気を取り直すことにした。 ところが、翌日、大勢いた女子高生が、井筒屋から一斉に姿を消したのだった。 実は、X子がKさんにぼくのことを聞いた日が、実習最後の日だったわけだ。 X子は、その後ぼくの前に姿を見せなかった。 ということで、ぼくはX子に訂正できないままになってしまった。
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