さて、積荷が終わり、ぼくたちは井筒屋に移動した。 そこでの仕事は、店から運ばれてきた多くのお歳暮を、地区別に仕分けすることだった。 各地区に番号が振られていて、それをベルトコンベアから流れてくるお歳暮ひとつひとつに書き込んでいく。 それが大変な仕事だった。 まず、地区番号を覚えなければならない。 普段ならその番号を覚えなくても、そこに一覧表があるのでそれを見ながらやっているらしい。 が、何せ数十万人分のお歳暮である。 そんな悠長なことをやっていたら、いつまでたってもお歳暮は配達されない。 ということで、地区番号をすぐに覚えるようにという厳命が下ったのだ。
そこで必死に番号を覚えたのだが、いざ実践となると、なかなかその番号が出てこない。 そこで、ちらちら一覧表を確認していた。 すると手が遅くなる。 そのため、ベルトコンベアに荷物を載せる人から、再三「まだかーっ!」と文句を言われたものだ。 ぼくが番号を書いて、荷物を次に回さないことには、次の荷物が載せられないからだ。
暗記した地区番号を実践に生かせるようになるまでには、けっこう時間を要した。 それでも10日ほどたつと、百人一首のように最初の一文字を見ただけで、瞬時に番号を書き入れられるようになった。 それまでは「まだかーっ!」と怒鳴られていたぼくだったが、その頃には逆にぼくが「まだかーっ!」と催促するようになっていた。
そのことでちょっとした事件が起こった。 その荷物を載せる係は、Y運送のアルバイトがやっていたのではなく、井筒屋が直接雇ったY大学の学生がやっていた。 彼らは最初、新米のぼくをからかうように「まだかーっ!」と怒鳴っていた。 ところが、その新米のぼくから催促されるようになったのだ。 これがおもしろくなかったらしい。 彼らは、ぼくを袋だたきにしてやろうと画策しだしたのだ。
ぼくはその話を、バイト仲間のKさんという人から聞いた。 Kさんはぼくよりも2つ年上で、井筒屋組と同じ大学に通っていた。 その井筒屋組の人間がKさんに、「おまえんとこに、しんたという奴がおるやろう」と言ってきた。 「おう、おるよ」 「あいつ生意気やのう」 「そんなことはないけど。それがどうしたんか?」 「いや、うちの連中があいつを気に入らないらしく、今度あいつを袋だたきにしてやろうということになった」 「え?」 「だから、何かあっても、おまえちょっと目をつむとってくれんか」 Kさんはそれを聞いてカチンと来たらしい。 そして言った 「ふざけるな!しんたはおれの弟みたいなものなんぞ。そんなことしたら、おれがただではすまさん!」 あまりの剣幕に相手は圧倒された。 Kさんはさらに続けた。 「まあ、おまえたちがあいつを袋だたきにしようと思っても、逆にやり返されるのがオチやけどのう。あいつ、高校で柔道部のキャプテンしよったらしいけのう」 それを聞いて、相手の戦意は完全に消失した。
ということで、袋だたき事件は未遂に終わったのだった。 その時点から、相手のぼくに対する態度が一変したのは、言うまでもない。
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