頑張る40代!plus

2005年01月05日(水) 上京前夜(4)

翌日、予定通り工事は始まった。
母は仕事のため、ぼく一人で応対しなければならなかった。
ガス屋のおっさんは言った。
「じゃあ、ぼちぼち取りかかりますね。用がある時は呼びますから、それまでぼっちゃんは好きなことやっていていいですよ」
ぼくはそれを聞いて、何だ、別に大したことをするわけじゃないのかと思い、「お願いします」と言って、部屋に入っていった。

30分ほどしてから、おっさんの声がした。
「ぼっちゃん、いいですか?」
「はーい」
ぼくはおっさんのところに行った。
そこに行ってみると、おっさんは道路工事で使うような大きなドリルを持っていた。
そして、「今から、このコンクリートを壊しますから、力を貸してください」と言った。
「はい…」
何か悪い予感がした。

おっさんは、「じゃあ、これ持って」と言って、ぼくにドリルを持たせた。
ぼくが、「これを動かすんですか?」と聞くと、おっさんは涼しい顔をして、「はい」と言った。
そして、「いいですか、これは、こうやって、ああやって使うものです」と言って機械の説明をしたあと、「じゃあ、やってみて」と言った。
機械の重さと、その振動の強さで、かなり体に負担がかかる。
力を入れて取っ手を握っていないと、ドリルは暴れ出す。
それを見ながらおっさんは、「もっと力を入れて」とか、「腰をちゃんと入れて」とか言っている。
一度手から離れた時などは、「何やっとるか!!力のないやつやのう」と、例の大きな声で怒鳴った。

うまくいかないのは力のせいではない。
高校時代まで柔道をやっていたので、普通の人と比べると力は強いほうだった。
では、何で手を離したのかというと、それは要領のせいである。

高校時代に米屋でバイトしたことがある。
その時、ぼくより背が低く痩せた兄ちゃんがいた。
彼はどう見ても、ぼくよりは体力は落ちるように思えた。
ところが、ぼくたちバイトが、20キロの米袋を3つ抱えさせられて「ヒーヒー」言っていた時、彼はそれを横目に、米袋を5つ重ねて運んだのだった。
その時初めて、力仕事に必要なのは力ではなく、要領のよさにあるというのを悟った。
まさにこの仕事も、要領が左右したのだった。

しかし、このおっさんは生意気である。
何でお客の自分が怒鳴られなければならないのだろう。
作業をしながら、ぼくはそのことをずっと考えていた。
だいたい何で、ぼくがこんなことをしなければならないのだろうか。
前日の腑に落ちない理由は、実にここにあったのだ。
そのことを気づくのに1日かかったのだから、やはりぼくは若かったと言えるだろう。

結局、コンクリートは、ぼくが削ったようなものだ。
その間おっさんは何をやっていたのかというと、カタログを見て一人でブツブツと何かつぶやいていた。
つまり、手を抜いていたのだった。


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