さっそく母はガス屋に電話した。 そして翌日、ガス屋のおっさんがやってきた。 何でもこのおっさんが工事をするというのだ。 最初にその話をした時に話だけで終わっていた見積りをやり、あらかたの金額が出た。 金額を聞くと、何とかぼくのバイト料でまかなえそうだった。 「じゃあ、お願いします」と母が言うと、ガス屋のおっさんは「では、明日から工事に取りかからせていただきます」と言った。 その後、二人が世間話をしだしたので、ぼくは自分の部屋に戻った。
おっさんの声は大きかった。 ぼくはその時レコードを聴いていたのだが、おっさんの声はそれでも聞こえていたのだ。 うるさいなあと思い、レコードのボリウムを上げようとした時だった。 おっさんが「ところで、ぼっちゃんはいくつになりますか?」と母に聞いているのが聞こえた。 『あっ、また下らんこと言うんやないんか』と思い、逆にボリウムを下げて耳をその会話に集中させた。
「今、19歳なんですよ」 「ほう。では学生さんですか?」 「いいえ」 「じゃあ、働いてらっしゃるんですか?」 「いいえ。仕事もせずに家でブラブラしてるんですよ。いったい何を考えているのか…」 「そうですか」 「ああ、そうだ。何なら工事を手伝わせてもいいですよ」 「そうですねえ。何もしてないのなら手伝ってもらいましょうかねえ」 「そうしてください」
そして母は、ぼくを呼んだ。 「あんた、このおじさんを手伝ってやりなさい」 「何で?」 「何もしてないんやけ、そのくらいしてもバチは当たらんやろう」 「何で、おれがせないけんとね」 そこでおっさんが口を挟んだ。 「いや、ぼっちゃん。ここの工事は一週間ほどかかるんですよ。私一人でやるもんでね。その間銭湯通いになるんですが、嫌でしょう?」 今ならともかく、その当時は銭湯に行くことはあまり好きではなかった。 そこで、「はい」と答えた。 「手伝ってもらえれば、もっと早く終わるんですよ」 「そうなんですか」 「ね、やってもらえませんか?」 「そういう理由ならしかたないですねえ」 「まあ、手伝ってもらうと言っても、道具を運ぶくらいだから、そうきつくはないですよ」 「わかりました」 ということで、話はまとまり、翌日から工事に取りかかることになった。
しかし、「わかりました」とは答えたものの、何か腑に落ちないものがあった。 後にそのことがわかるのであるが、すぐにはそれがわからなかった。 まだ若かったのだ。 というより、世間ずれしてなかったのである。
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