頑張る40代!plus

2005年01月04日(火) 上京前夜(3)

さっそく母はガス屋に電話した。
そして翌日、ガス屋のおっさんがやってきた。
何でもこのおっさんが工事をするというのだ。
最初にその話をした時に話だけで終わっていた見積りをやり、あらかたの金額が出た。
金額を聞くと、何とかぼくのバイト料でまかなえそうだった。
「じゃあ、お願いします」と母が言うと、ガス屋のおっさんは「では、明日から工事に取りかからせていただきます」と言った。
その後、二人が世間話をしだしたので、ぼくは自分の部屋に戻った。

おっさんの声は大きかった。
ぼくはその時レコードを聴いていたのだが、おっさんの声はそれでも聞こえていたのだ。
うるさいなあと思い、レコードのボリウムを上げようとした時だった。
おっさんが「ところで、ぼっちゃんはいくつになりますか?」と母に聞いているのが聞こえた。
『あっ、また下らんこと言うんやないんか』と思い、逆にボリウムを下げて耳をその会話に集中させた。

「今、19歳なんですよ」
「ほう。では学生さんですか?」
「いいえ」
「じゃあ、働いてらっしゃるんですか?」
「いいえ。仕事もせずに家でブラブラしてるんですよ。いったい何を考えているのか…」
「そうですか」
「ああ、そうだ。何なら工事を手伝わせてもいいですよ」
「そうですねえ。何もしてないのなら手伝ってもらいましょうかねえ」
「そうしてください」

そして母は、ぼくを呼んだ。
「あんた、このおじさんを手伝ってやりなさい」
「何で?」
「何もしてないんやけ、そのくらいしてもバチは当たらんやろう」
「何で、おれがせないけんとね」
そこでおっさんが口を挟んだ。
「いや、ぼっちゃん。ここの工事は一週間ほどかかるんですよ。私一人でやるもんでね。その間銭湯通いになるんですが、嫌でしょう?」
今ならともかく、その当時は銭湯に行くことはあまり好きではなかった。
そこで、「はい」と答えた。
「手伝ってもらえれば、もっと早く終わるんですよ」
「そうなんですか」
「ね、やってもらえませんか?」
「そういう理由ならしかたないですねえ」
「まあ、手伝ってもらうと言っても、道具を運ぶくらいだから、そうきつくはないですよ」
「わかりました」
ということで、話はまとまり、翌日から工事に取りかかることになった。

しかし、「わかりました」とは答えたものの、何か腑に落ちないものがあった。
後にそのことがわかるのであるが、すぐにはそれがわからなかった。
まだ若かったのだ。
というより、世間ずれしてなかったのである。


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