小学生の頃に、学校の図書館で太平洋戦争関連の本を読んだことがある。 その中に一冊、毛色の変った本が入っていた。 本のタイトルは確か『太平洋戦争前夜』だったと思うが、定かではない。 戦前、日本に住んでいた朝鮮人の女の子の物語だった。
“主人公が小学生の時のことだった。 ある日、同級生が舌を出して、 「ねえ、これ何と言うか知ってる?」と聞いてきた。 彼女は、もちろん『ベロ』というくらいは知っていた。 が、その時あまりにとっさなことだったので、頭が混乱してしまい、『ベロ』なのか『ペロ』なのかわからなくなった。 同級生は、「ねえ、答えてよ」としつこく聞いてくる。 そこで、思わず「ペロ」と言ってしまったのだ。 それを聞いた同級生は、「やっぱり、朝鮮人は『ベロ』と言えないんだね」笑いだした。 しかし、彼女は、何で同級生たちが笑っているのかわからなかったそれまで、彼女は自分を日本人だと思っていたのだった。
家に帰った彼女は、さっそく母親に「私、朝鮮人なの?」と尋ねた。 それを聞いた母親は、急に悲しそうな顔をした。 それまで、娘には自分たちが朝鮮人であることを伝えてなかったのだ。 出来れば、そのことを告げずにいたかったのだが、もう隠しおおすことはできないと観念し、正直に自分たちが朝鮮人であることを娘に告げた。 それを聞いた彼女は、大きなショックを受けた。 それ以来、彼女は同級生と遊ぶこともなくなった。 「私は朝鮮人だ」という思いが、心を閉ざしてしまったのだ。
そういう時だった。 彼女は、他にも学校内に何人かの朝鮮人がいることを知ったのだった。 それ以来、彼女はその人たちだけと付き合うようになった。
その友人がある時言った。 「今、祖国では、朝鮮人の国を作るために、金日成将軍が日本人と戦ってくれている。私たちも頑張ろう。今に金日成将軍が朝鮮人を助けてくれるんだから」 その言葉に勇気づけられた彼女は、人から「朝鮮人」と後ろ指を指されても気にならないようになった。 そして、彼女はまだ見ぬ祖国に思いをはせるようになるのだった。”
確か、こんな内容だったと思う。 その話はまだまだ続くのだが、ぼくはそこまでしか読んでいない。 おそらく、彼女は祖国に戻り、朝鮮独立のために戦うのだろう。 そして、地上の楽園の建設に携わるようになるのだと思う。
今考えると、どうしてこんな本が、小学校の図書館に置いてあったのかがわからない。 どう見ても、総連関係者が書いたものである。 もしかしたら、ぼくが小学生の頃、まだ続いていた帰国事業の一環という理由で、小学校の図書館に配分したのだろう。 日教組と総連は親密な関係にあるのだから、そう考えるのが自然だろう。
しかし、こんな大嘘をよく書くなあというのが、今のぼくの感想である。 その当時、金日成はロシアにいたのだから、日本軍と戦えるはずがないではないか。 さらに、その金日成なる人物は、あくまでも伝説上の人物であって、現在世界的に認識されている金日成とは、まったく違う人間なのだ。 北朝鮮の金日成が、その名前を拝借したというのは、あまりにも有名な話である。 以前、田舎町に、突然ヴィレッジシンガーズの清水道夫と名乗る男が現れたことがあったが、彼はそれと同じことをやったのだ。 ただ違うのは、偽清水がせしめたのは何十万かの金にすぎなかったのに対し、彼は一国をせしめてしまったということだ。 その大嘘つきの遺伝子を持つ息子が、跡を継いでいるものだから困るのだ。
それはともかく、上記のような嘘本を読み、理想に燃えて帰国した人たちもいただろう。 そういう人たちが今、大嘘つきのせいで、塗炭の苦しみにあえいでいる。
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