それから数日たった、ある日の朝のことだった。 配達業者の社長がぼくに声をかけてきた。 「今、時間空いとるかねえ?」 「ええ」 「じゃあ、ちょっとつきあってくれん?」 特にすることもなかったので、ぼくは「いいですよ」と答え、社長について行った。
社長は店の近くにある喫茶店に入っていった。 そして席に着くなり言った。 「大変そうやね」 「ええ、まあ」 「ぼくが思うに、今の店長はあんたのことを誤解しているようだ。ぼくの周りの人間は、今回の人事を聞いた時に、みんな首をひねったもんねえ」 「誤解してるんですかねえ。まあ、嫌われているのは確かですけど」 「いや、それは誤解から来てると思うよ」 「そうですかねえ」 「で、ちょっとぼくに任せてくれんね」 「え?」 「店長に、あんたを正しく評価してもらえるように仕向けるけ。だからもう少し我慢しとき。みんなあんたの味方なんやけ」 その日、テナントの社長にも同じようなことを言われた。
また、ある時のこと。 仕事が終わって店を出ようとすると、同僚が駆け寄ってきた。 「しんちゃん、わかったよ」 「何が?」 「あんたの噂を流した奴」 「え?」 例のスパイのことだ。 「あいつとあいつ。おれ事務所で発注しよる時に、店長にチクりようの聞いたもんね」 「そうね」 「でもね、その噂も誤解だったとわかったみたいよ」 ぼくはそれを聞いて、配達業者の社長やテナントの社長の言ったことを思い出した。 あの人たちがいろいろと手を尽くしてくれていたのだ。 ぼくはすべてが好転しているように思えた。
2ヶ月目も終わりの頃だった。 店長が閉店後、外販部隊を集めた。 そして、 「いろいろ君たちに頑張ってもらっているけど、今、肝心の店のほうの人員が足りない状況にある。翌月からは大切なキャンペーンも始まることだし、このままだと大変なことになってしまう。そこで、君たちを元の部署に復帰させたいと思っている」 と言った。 これで2ヶ月に渡った、外販部隊という名の見せしめが終わった。ぼくはそう思っていた。 しかし、そうではなかった。 店長のぼくに対する執拗な攻撃は、まだ続いていたのだった。
翌日、内示があった。 前日の話では、メンバーは元の部署に戻されるはずだった。 ぼくより先に呼ばれたメンバーは、みな元の部署に戻るように言われたようだった。 店長は最後にぼくを呼んだ。 「しんた、昨日元の部署に戻すように言ったけど、おまえには他の部署でやってもらうことにした」 「え?」 「いろんな人がおまえを優秀と言ってくるけのう。元の部署じゃ物足りんやろう」 「そんなことはありません。前の部署で充分です」 「いや、そんな優秀な人間を、楽器売場みたいな小さな部門に置いといては、店にとっても大きな損失になる。そこで、おまえにはもっと大きな部門に行ってもらって、その優秀さを発揮してもらう」 明らかに皮肉だった。
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