前の会社では、毎年秋になると2ヶ月間電子レンジの販売キャンペーンをやっていた。 これは全社挙げてやっていたもので、その部門はもちろん、他の部門の人間もノルマを課せられた。 そのノルマは、一人当たり100万円前後だった。 当時電子レンジの価格は10万円前後だったが、10本近く売らなければ、その金額に到達しない。 しかしそれは他部門の人間の数字である。 ホスト部門ともなると、この何倍も売らなければならなかった。
その当時の電子レンジといえば、すでに一般的な調理用品になっていて、かつて三種の神器と呼ばれていた頃のような、憧れの商品ではなくなっていた。 そのため、最初にそのキャンペーンを始めた頃のように売りやすい商品ではなくなっていた。 それをこの数字である。 会社に入った当初から、ぼくはそういう部門に行くのは嫌だった。
ぼくが店長から内示を受けたのは、そのキャンペーンの始まる前の月だった。 店長が大型部門と言ったので、「もしかしたら、電子レンジを売らされるのか」と頭の中を不安がよぎった。 そこで、皮肉は言うが、異動先の部門をなかなか教えてくれない店長に、「で、どこに行くんですか?」と聞いてみた。 「だから大型部門と言ったやろうが」 「もしかして、電子レンジですか?」 「おう、そうよ」 「そうですか…」 「おまえには、キャンペーンが終わったら、また異動してもらう。優秀な人間なんやけのう」 「え?」 「電子レンジが終わったら、次のキャンペーンがあるやろうが」 「映像部門ですか?」 「おう。その次も考えとるぞ」
店長はぼくをたらい回しにしようとしていたのだ。 電子レンジと映像と、確かに大型部門ではある。 が、どちらも専門的な知識が要求される部門なのだ。 そこに腰掛け程度の人間がいて、何の戦力なるだろうか。 やはり店長はぼくを辞めさせたがっていたのだ。 周りからいろいろ言われているから、いちおうぼくを大型部門に異動させた。 それで面目は保てる。 しかし、その部門に定住させることはしない。 部門を短期間で異動させることで、ぼくを追い込もうとしたのだ。 そのことはわかりすぎるほどわかっていたので、ぼくはその手に乗るようなことはしなかった。 店長が根負けするまで、じっくり待つことにしたのだ。
さて、翌月。 電子レンジの売場とはいえ、ようやく店に戻ることが出来た。 『これで、少しは気分的に楽になった』と思っていると、そこの売場の責任者が、「店長から、『しんたは外販が好きらしいから、あいつに各社員から出た見込み客の家を回らせて、売ってきてもらえ』と言われとるんよ」と言ってきた。 「また外回りですか?」 「しかたないやん、店長命令なんやけ」 結局、店長はぼくが店にいるのを許さなかったのだ。 その後店長は、ぼくが店にいるのを見つけると、「こら、行くところはないんか?店でボサーッとしてないで、さっさと外回りしてこい!」と言って、ぼくを追い出しにかかったものだった。 そのせいで、ぼくは何度も切れそうになった。 が、「絶対根負けさせてやる」と思い、我慢していた。
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