さて、突然「外に行って売ってこい」などと言われても、売れるものではない。 それ以前に行く所がない。 仕方なく、知り合いに片っ端から電話をかけてみた。 「あ、しんたです。お世話になってます。実は…」 ぼくは事情を話し、誰か電化製品を買う人はいないか聞いてみた。 しかし、どの人も、 「うん、事情はわかった。しんたさんにはいつもお世話になっているから、力になってやるよ」 と同情して、協力するとは言ってくれるけれど、最後に必ず、 「だけど今日買う人はおらんかと言われてもねえ…」 という言葉が返ってきた。
ぼくは意地になっていた。 とにかく、店長を見返してやりたかったのだ。 それが初っぱなからこんなことでは、あの店長から嫌みを言われ悔しい思いをするのは目に見えている。 そういうわけで、気がつけば母の知り合いにまで電話をかけていた。 そして何とか、一台目の売り上げを作った。
それは冷蔵庫だった。 母の知り合いに電話をかけた時に、「知り合いで冷蔵庫を買い換えようという人」という情報を得たのだ。 さっそくぼくは電車に乗って、その人の家に向かった。
「あのう、Yさんからこちらに行ってくれと言われて来たんですが」 「ああ、電気屋さん。ちょうどよかった。この冷蔵庫がおかしいんよ。もう寿命なんかねえ」 「どのくらいお使いですか?」 「うーん、もう15年になるかねえ」 「ああ、そうですか。もうメーカーに部品もないでしょうね」 「そうよねえ。じゃあ、買い直すわ」 ぼくは店に電話して、おすすめの一品を聞いた。 そして、その機種をその人に勧めた。 「ああ、それでいいよ。すぐに持ってきて」 そうやって商談はまとまった。
2日目、前日に電話をかけていた人から情報を得て、テレビが決定する。 3日目も同じように売り上げを作った。 そうやって、与えられた予算をクリアしていった。
終業後、ぼくたちは毎日店長に日報を提出しなければならなかった。 ぼくの日報を見て店長は、「フン、なかなか優秀やないか、しんた君。でも、これがいつまで続くかのう」と嫌みを言った。 それを聞いても、ぼくは気にしない振りをしていた。 内心はそうではなかった。 怒りにうちふるえていたのだ。 しかし、それを口にはしなかった。 ここで何か言ってしまうと負けであるからだ。 ぼくは必至に耐えていた。
外販部隊を立ち上げてから3週目に、ぼくは月の予算を達成していた。 初日に電話をかけまくったのが功を奏したのだ。 4日目以降は毎日売れるようなことはなかったが、それでも何日かおきに売り上げが上がった。 その売り上げを見て、店長は苦々しく思っていたようだった。 「あいつ、本当に売ってきよるんか?」と、各売場に聞いて回っていたようなのだ。 確かに店長一派はぼくの敵だったが、それ以上にぼくには味方のほうが多かった。 そういう人が、「しんたはちゃんと外で売ってきています」とフォローしてくれていた。 それを聞くたびに店長は、不愉快な顔になったという。
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