前の会社での話である。 3代目の店長が就任して1ヶ月ほどたった頃だった。 就業規則で昼食時間は1時間と書いているのにも関わらず、新店長は「休憩時間のとりすぎじゃ」と言って、勝手に45分に変えてしまった。 それを全体朝礼の時に発表したのだが、当然のように場がざわめいた。 それもそのはずである。 その頃、社員食堂はすでになく、弁当を持ってきてない人は、みな外食をしなければならなかった。 外に出て、食べるところを決めて、食べるものを決めて、注文して、出来上がるのを待って、食べて、お金を払って店を出て、会社に戻るのである。 ただでさえ人の多く集まる繁華街である。 こちらが昼食をとる時間帯は、どこの食堂も満員なのだ。 そういう状況下、たった45分で食事をすませるということは至難の業であった。 みんなが騒ぐのも、無理もないことだった。
それを聞いて一番頭に来たのがぼくだった。 ぼくも外食組だったので、45分にされては困る一人だったのだ。 「黙っていては、新店長の思いどおりになってしまう」と思ったぼくは、さっそく口を開いた。 「ちょっといいですか?」 「はい、どうぞ」 「これまでの就業規則では、昼食時間は1時間と明記してありましたよねえ」 「・・・」 「どうして、それをどうして変えるんですか?」 「い、いや、ちゃんと就業規則には45分と書いてある」 「おかしいですねえ。どこに書いてますか?前の店長の時には、ちゃんと1時間となっていたはずですが」 「それはその…」 新店長の決めごとを発表した店長一派の課長は、口ごもってしまった。
結局収拾がつかなくなり、「その件については見直す」ということになった。 朝礼後、他の社員からは「しんた、よく言った」と拍手されたものだった。 ところが、それを苦々しく思っていた新店長一派は、急にぼくに対する態度を変えた。
さっそくその夜、ある課長が「しんた君、今日のはやりすぎじゃないか」と言ってきた。 「そうですかねえ。ぼくはそうは思いませんけど」 「いや、確かに君の意見は正しいと思う。しかし、あの場で言うことじゃない」 「あの場で言わなかったら、どこで言うんですか?」 「朝礼後とか、いろいろ言う場所があったろう」 「ないです」 「・・・。まあいい。でも、君は朝礼の場を乱したんだ」 「そうですかねえ」 「そう。それが今問題になっとる。今から店長のところに行って謝ってこい」 「何で謝らなきゃならないんですか?」 「形だけでもいいから、謝ったほうがいい」 「いやです」 「じゃあ、謝らんでいいけ、とにかく行ってこい。朝礼のことをわびて、自分の意見を曲げんなら、そう言えばいい」 「何で行かなならんとですか」 「いいけ、来い」 課長はぼくの手を引っ張って、店長室の前まで連れて行った。
|