今月1日に、道路交通法は一部改正され、運転中に携帯電話を手に持ってかけることが禁止になった。 それに伴って、ハンズフリーのイヤホンマイクが飛ぶように売れている。 うちの店でも、入荷したと思ったら、すぐに売り切れる状態が続いている。
さて、そんな状況の中で、なぜか売れ残っている機種がある。 それは、携帯のスピーカー部分にマイクをつけ、それを電波で飛ばす機種である。 その機種は、ご丁寧に車載用のホルダーまでついている。 まあ、価格は2000円前後と、他のハンズフリー商品に比べると若干高いのだが、どんな携帯電話にも適合するし、コードレスであるため邪魔なコードもついてない。 しかも雑音はきわめて少なく、まさに至れり尽くせりの商品なのである。 だけど売れないのだ。
その商品は、今月の頭に市内の卸屋さんから仕入れたものだ。 先月そこからイヤホンマイクを仕入れていたのだが、それがすぐに売り切れたためにすぐに注文をかけた。 すると、本社から「この間のイヤホンマイク注文したやろ?」と連絡が入った。 「卸屋が切らしとるらしくて、当分入ってこんらしいんよ」 「そうなんですか」 「それでね、そこがその代替えを入れたらしいんよ。それが優れものらしく、先方が『ぜひそちらを』をと言うんで、それをとることにしたけ」 「優れものならいいですよ」 ということで、その商品が入ることになった。
さっそく卸屋さんはその機種を持ってきて、「これなんですけど」と言う。 そこでじっくり見ておくんだった。 たまたまその時、お客さんに捕まって、検品しただけで終わっていたのだ。
その商品をじっくり見たのは、卸屋さんが帰ったあとだった。 ぼくは、その商品の能書きを見るなり、「これは売れん」と思った。 なぜそう思ったかというと、それは電波にあった。 そこには、「カーラジオをFMにして、周波数を○○KHzに合わせて下さい」と書いていた。 ということは、電話中に隣を走っている車が、周波数をそこに合わせていたら、電話を聞けるではないか。 そう、その商品は逆盗聴機なのだ。 そういう商品を、誰が買うだろうか。 案の定、本社の建前上その商品の展示はしたものの、先に書いたとおり売れないのだ。
数日前のことだった。 大阪の問屋さんが尋ねてきた。 「しんたさん、実はいい商品があるんですよ。本社にカタログを持って行って見てもらったんですが、しんたさんの了解を得てくれと言うことだったんで、こちらに来たしだいです」とのことだった。 問屋氏は自信ありげにカタログを取り出し、「これです」と言ってぼくにそのカタログを見せた。 それを見て、ぼくは唖然とした。 何と、先の逆盗聴器と同じものではないか。 すぐさまぼくは、「いらん」と言って断った。 「どうしてですのん。いい商品なのに。バイヤーさんも『いいね』と言ってはりましたわ。それにもう、イヤホンマイクはないでしょ。」 「バイヤーが何と言おうとも、いらんもんはいらん。そこ見てん」 そう言って、ぼくは逆盗聴器を展示している場所を指さした 問屋氏はぼくの指さしたほうを見た。 「えっ、もうありますやん」 「うん。でも、それ売れんよ」 「どうして?音もいいし、コードが邪魔にならんのに」 そこで、ぼくはその商品の説明をした。 問屋氏は、「なるほど。言われてみればそうですなあ…。わかりました。この商品は諦めますわ」と言った。
続けて問屋氏は言った。 「ところで、個人的なことで何ですが、ここイヤホンマイクありませんか?」 「え?」 「一つほしいんですよ。持ってないもんで」 「それこそ、優れもんの逆盗聴器使えばいいやん」 「いや、それは勘弁して下さい」 問屋氏は、うちに一つ残っていた、優れもんじゃないイヤホンマイクを買っていったのだった。
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