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2004年10月15日(金) タマコその後

久しくタマコのことを書いてないので、彼女がどうなったか、気になっている方もおられると思う。

実はもう、タマコはぼくの会社にはいない。
7月に就職が決まったので、辞めたのだ。
まあ、アルバイトだったから、ぼくのような男の下でずっとからかわれながらフリーターをやっていくよりも、ちゃんとした会社の正社員として働いたほうが本人のためである。

で、どこに就職したのかというと、これが地場の大手デパートなのだ。
最近は知らないが、ぼくが小さい頃は、そのデパートで働くことにあこがれを持っている女子が何人もいたものだ。
しかし、そういうところは競争率も高いから、そう易々と入ることは出来ない。
それをあのタマコは易々と入社したのだ。

「まんざら馬鹿でもないやん」と思われる方もいるだろう。
しかし、タマコがそのデパートに入社できたのは、試験よりも面接で好印象を得たからだった。
面接の時、試験官が、
「特に女性の多い会社ですから、人間関係の難しさもありますが、そういう場合、あなたはどうやって対処しますか?」とタマコに聞いた。
するとタマコは、
「わたし、家で犬を飼ってるんです。悩みがある時はその犬に打ち明けています」と答えたそうだ。
それが試験官に受けたらしく、晴れて入社と相成ったわけだ。

あれから2ヶ月半になる。
ぼくは毎月一度そのデパートに行くので、そのついでにタマコの制服姿を見に行くのだが、そのたびにタマコはいない。
その売場の人に聞いてみようかとも思ったが、ぼくはタマコのことをいつも「たま」とか「タマコ」とか呼んでいたので、すぐに名字が出てこなかった。
そのため、いつも聞けないでいた。

今日のこと、たまたまそのデパートにおつかい物を買いに行く用があった。
そのついでに、タマコのいる売場を訪れてみた。
いるいる。
例のごとく、タマコは口を開けて、売場の中を牛のようにノソノソと歩いていた。
ぼくはタマコに気づかれないように背後から近づいて、「こらっ!」と言った。
タマコはその声に動じることもなく、ゆっくりをぼくのほうを振り返った。

「あっ、お父さん」
「おれはおまえのお父さんやない」
「ちょうどいいところにきた。今日の予算は15万やけど、あと2万足りんけ、何か買って」
「今日は他の物を買いに来た。おまえんとこで買うもんなんかないわい」
「そう言わんで買って」
「そんな金はない」
「じゃあ、紳士服作って」
「いらん」
「お願いですから」
そう言うと、タマコはぼくに紳士服の紹介カードを手渡した。
「こんなのいらん。それよりも、ここはカードのノルマとかないんか?」
「あるけど」
「じゃあ、申込書をくれ。それなら入ってやるけ」
「それは上の階に行ってもらって下さい」
「普通、ノルマがあるなら持っとくべきやろ」
「うーん…」
タマコは情けない声を上げた。
「まあいい。今度来た時に用意しとけよ」
「それはそうと、まだ歓迎会やってもらってない」
「え?」
「辞める時、してくれると言ったやん」
「誰も歓迎会をしてやるとか言ってない」
「えー、約束したやん」
「約束してない。何でおれがおまえの歓迎会をしてやらないけんとか。歓迎会なら、ここの人にしてもらえ」
歓迎会と送別会の区別もつかないとは、相変わらずの大馬鹿者である。

そのあと、ぼくはその売場を離れ、他の売場に行った。
そこから、タマコの売場を見てみると、タマコはまた口を開けて売場の中をノソノソと歩いていた。
たまにお客さんが来ると、不器用に頭を下げていた。
ぼくはそれを見て、「ここに来る楽しみが出来たわい」と思っていた。


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