そうこうしているうちに昼になった。 買い出しに行けないため、昼飯は「あるものですまそう」ということになった。 そこで「あるもの」を探してみた。 が、そこにあったのは、悲しいかなインスタントラーメンだけだった。 「ピザ頼もうか?」 「いくら何でも今日は来んやろう」 「ちっ、営業努力が足りんのう」 まあ食べないよりはいいということで、結局ラーメンを作ることになった。
ラーメンを食べながらテレビを見ている時だった。 窓のところに黒い影が見えた。 「え?」と顔を上げ、窓の方を見た。 だが、何もいない。 気のせいかと思い、またテレビに顔を向ける。 するとまた気配がする。 嫁さんに、 「おい、何かおるぞ」 「どこ?」 「窓のところ」 「えっ?何にもおらんやん」 「いや、確かに何かおる。黒い影が見えた」 と二人で窓のところをしばらく見ていた。 「あっ!」 と二人で大きな声を上げた。 犯人は網戸だった。 風が吹くたびに、レールの上を往ったり来たりしているのだ。 しかも風のせいで少し曲がってしまったようだ。 レールを往復する時に、微かに「ガガッ」という音がしている。 うちの網戸は軽量タイプではなく、比較的重いタイプである。 それがキャッチボールするみたいに、軽々と往ったり来たりしているのだ。 その時初めて、今回の台風は尋常ではないと思った。
テレビでは各地の被害状況を映し出している。 それを見ながら、「こりゃひどい」と嫁さんと話している時だった。 会社から電話が入った。 ぼくの友人が会社の駐車場に軽トラックを置いているのだが、それが壁に激突しているというのだ。 しかも、トラックを駐めている場所の横にある縁石を乗り越えているらしい。 風に押されて横転しているというのなら話はわかる。 が、縁石を乗り越えさせるためには、トラックを持ち上げない限り無理である。 ということは、トラックは宙に浮いたということになる。 さっそくぼくは友人に連絡を取った。
その日会社では、外の売場の上にある雨よけのポートが飛ばされたり、会社の周りに植えてある木が風でなぎ倒されたり、駐車場に駐めてあった社員の車に一升瓶がぶち当たり窓ガラスが大破したり、とさんざんな状況だったという。 これまでの台風は、ぼくが出社している時にやってきている。 休みの日にくるのは今回が初めてだ。 そのため最初は「休みでよかった」と思っていた。 だが、会社での話を聞くたびに、そういう状況が見られなかったことが残念に思えてくる。 また、そういう話を聞くにつれ、物干し竿乱舞くらいの情報しか持ち合わせていない自分が情けなく感じる。 せっかくだから、大しけの海にでも行けばよかった。
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