頑張る40代!plus

2004年09月01日(水) 山嵐(2)

そして6年生の春がきた。
4月、ぼくは母といっしょに道場に行った。
「ごめんください」
「はい」
いつものように先生が出てきた。
これでぼくたちは、この道場に3度来たことになるから、当然ぼくたちのことを覚えているものと思っていたのだが、先生はまったく覚えてなかったようで、「何ですか?」と言った。
「柔道を習いたいんですけど」
「小学生かね」
「はい」
「何年生かね」
「6年生です」
「まだ早いなあ。柔道は危険だから、中学生になってから来なさい」と、先生は前と同じようなことを言った。
母もこれにはカチンときたようだった。
「去年も来たんですけど、その時先生は『6年になったら来なさい』と言いましたよ。それで今日来たんじゃないですか」
「えっ、去年も来た?」
「はい、来ました。去年だけじゃなく、5年前も来ましたよ」
「ああ、そうでしたか」
「先生はいつも『体が出来てから来い』と言いますね」
「いやお母さん、実を言うと、いま道場は休んでいるんですよ」
「えっ!?」
「いや、今度工事をするんで…」
「ああ、そうなんですか」
「秋には完成する予定ですから…」
「じゃあ、秋から来てもいいんですか?」
「そうして下さい」
「わかりました。じゃあ、秋に来ます」

9月になった。
もう一度確認のために、もう一度道場に行った。
もう先生は逃げるわけにはいかない。
渋々「11月から始めるから」と言った。
ぼくが柔道を志してから、6年目にしてついに入門を許されたのである。
しかし、テレビのニュースなどで、時々小学生柔道大会を取り上げているが、この人たちは体が出来ていたのだろうか?
中にはどう見ても1年生の子もいるようだが。
それがその当時の疑問だった。

そして11月になった。
道場から連絡があり、5日から来てくれということだった。
その日、学校を終えたぼくは、真新しい柔道着を持ってバスに乗り込み、道場に向かった。
「これで念願の山嵐を覚えられる」
バスの中でぼくは、そのことばかり思っていた。

道場はバス停のすぐそばにあった。
路地を抜けると、そこに道場があった。
「こんにちはー」
「おお、来たか」
道場にはあいかわらず先生と事務員さんしかいない。
そこでぼくは聞いてみた。
「先生、他の人はいないんですか?」
「今日は休みだ」
「えっ!?」
「いや、おまえはまだ入門者だから、みんなが休みの時に来てもらって、基本を覚えてもらう。他の人との練習は基本を身につけてからだ」
そう言って、ぼくに受け身の練習をさせた。
その日は1時間ほどで終わったが、ずっと受け身だけだった。
山嵐まではまだ時間がかかりそうだった。


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