以前、ノルディック複合の荻原選手(弟の方だったか?)が言っていたが、「日本人は試合で負けると勝つために練習をするが、外国人は試合に負けると勝つためにルールを変える」というようなことを言っていた。 かつて日本のお家芸とまで言われたスポーツが、このところ全く振るわなくなっているが、その理由の一つに、このルール改正というのがある。 女子バレーボールしかり、男子体操しかり、冬季も入れると前述のノルディック複合もしかりである。 やはり国際的には圧倒的に白人優位なのだ。
いつのオリンピックだったか、男子体操の森末選手が鉄棒で金メダルを取ったことがる。 その時、森末はフィニッシュで大技をやる予定だったらしいが、急遽それを変更して、着地時の乱れが少ない後方伸身2回宙返りを使った。 森末は例のごとく、満面の笑みを浮かべ、それがパーフェクト演技であることをアピールした。 結果は10点満点だった。
先に書いたとおり、森末はこれで金メダル奪取したわけだが、東京大会以来、ずっとオリンピックの体操を見てきた世代にとっては、何か一つ物足りなかった、に違いない。 なぜなら、そういう人たちは、山下跳びや月面宙返りなど、日本人が編み出してきたウルトラC技をリアルタイムで見てきたからである。 とりわけて塚原光男の、ミュンヘン大会で初めて披露した月面宙返りは凄かった。 あの大技が決まった時、会場は一瞬シーンとなった。 その後会場内に嵐のような拍手や歓声が起こった。 もちろんスタンディングオベーションである。 翌日の新聞では、一面にでかでかとストロボ写真が掲載された。 この大技『後方抱え込み宙返り2分の1ひねり、前方抱え込み宙返り2分の1ひねり』は、ぼくたちの間で流行語になったくらいだ。
その後体操競技は、そういった華やかな技よりも、着地の乱れの少なさなどで得点を争うという、ネガティブなものになった。 着地の時、半歩でも足が前に出ると減点されるのだ。 月面宙返りのような大技は、着地が非常に難しい。 塚原もミュンヘンの時は足が半歩出ていた。 が、その時の、塚原の得点は当時最高の9.90だった。 一方の森末は10点満点。 あれだけの大技よりも、着地で乱れない、というより見た目が楽しくない後方伸身2回宙返りのほうが点が高いという時代になってしまったのだ。 もし森末の時代に、塚原が初めて月面宙返りをやっていたとしたら、おそらく9.50くらいしかでなかったのではないだろうか? もはや技の時代ではなくなっていたのだ。 と同時に、これが技のデパートであった日本男子体操陣の、衰退の始まりだった。 おそらくその原因は、日本人が不利になるようなルール改正が行われたからだろう。
と、ここまで書いたところで、携帯に速報が入ってきた。 『体操男子団体で日本が1976年モントリオール大会以来6大会ぶりの金メダル』(時事通信) 久しぶりのお家芸復活である。 この速報を見た時、ぼくは思わず「うおーっ」と吠えていた。 しかし冷静に考えると、これも手放しでは喜べない。 またルールが変わるだろうからだ。
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