| 2004年07月09日(金) |
バスに乗って会社に行く(後) |
さて、バスに乗った後、ぼくはあることに気がついた。 バスから見えるのは、今まで見たこともない風景だ。 バス停の名前も馴染みがない。 そういえば、会社は駅から見ると右の方向にある。 だが、バスは左に進んでいる。 それが意味すること、それはバスは会社から遠ざかっているということだった。 一瞬バスに乗り間違えたかと思った。 が、乗り込んだ時、運転手はちゃんと「○○町経由」と言っていた。 「遠回りしているのか?」 ということは、定時に間に合わない。 「どうしようか」と思ったが、バスを降りて歩いたりしていたら30分以上はかかってしまう。 かといって、タクシーに乗るほどの金は持ち合わせてはいない。 バス以外に会社に行く術はないのだ。 諦めてバスに乗っていることにした。 バスはさらに遠回りしているように思える。 左、右、また左にバスは進んでいく。 「もうどうにでもなれ」 という気持ちだった。
しばらく行くと、ようやく知った地名が出てきた。 しかし、そこは会社からけっこう離れている場所だった。 時計を見ると、定時まであと10分を切っている。 「こりゃ間に合わんわい」 ぼくは腹を決めた。
ところが、そこからバスは大きく右折し、会社のある方向に向かいだした。 道路は渋滞もなく、流れるように進んでいく。 そのおかげで、5分もかからずに隣町にたどり着いた。 「もしかしたら間に合うかも」 ここで問題になるのが、降りる場所である。 その時、車内放送が鳴った。 『次は○○町、H内科医院前です』 H内科医院、エッセイ『病院嫌い』に書いている、夕方になると決まって起きていた頭痛と微熱を、レントゲンや心電図をとったあげくに、「病名は肩こりです」と診断を下した名医のいる病院である。 「次はH内科前か。じゃあ、店からは近い」 ということで、「ピーンポーン」とチャイムを鳴らした。 「はい次停車」と運転手の声。
「ピーンポーン」とチャイムを鳴らしてから、1分足らずでバスはH内科前に着いた。 ぼくは、用意していた小銭を整理券とともに料金箱に入れて、バスから降りた。 「まだ間に合う」 そこからは走りだった。
1分少々走って、ようやく店が見えるところまで来た。 ところが、何とそこにバス停があるではないか。 見てみると○○町の次のバス停である。 しかし、そのバス停名は、うちの店から言えば、向こう隣の町の名前ではないか。 うちの店に来る人でも、ぼくみたいにバス停名を知らなければ、この停留所では降りないだろう。 これはちょっと困りものである。 ぼくは走りながら、「ちゃんと正しい町名をバス停名にしろ。おかげで走らないけんやないか」とつぶやいた。 店に駆け込んだのは、定時1分前だった。 もし、その停留所で降りていたら、ゆっくり歩いても、2分前には着いていただろう。
ま、とはいえ、初めての体験は何とか無事に終わった。 もう次は大丈夫である。 で、次はいつになるのだろうか。 今から待ち遠しい。
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