最近、浪曲などとともに、世間から遠ざかっている歌の一つに軍歌がある。 ぼくが子どもの頃は、ごく普通に歌われていた。 当時はカラオケなどなかったから、おっさんたちは酒が入ると手拍子で歌をうたっていたのだが、その時歌われていたものはほとんどが軍歌だった。 子どもの間にもそれは浸透していて、ぼくが小学生の頃には、友だちと「軍歌の中で何が一番好きか?」などと言っていたものだ。 一番多かったのは『加藤隼戦闘隊』だった。 ちなみにぼくが好きだったのは『麦と兵隊』だった。 これは母親が好きでよく歌っていたから、その影響を受けたのだろう。
また、ぼくが小さい頃に流行ったドラマやアニメの主題歌は、どう聴いても軍歌というものが多かった。 まあ、まだ軍歌からそう離れていない時代だったから、そうなったのだろうが。 その中でも『ゼロ戦ハヤト』の主題歌は、まさに軍歌と言っていいものだった。 この歌が戦時中に歌われていたとしても、別に違和感はなかっただろう。
軍歌はテレビのCMでもよく使われていた。 森永エールチョコレートの「大きいことはいいことだ〜♪」という歌があったが、ずっと後に何かの本で「あの歌の元は軍歌である」と書いてあったのを読んだことがある。 それを読んでぼくは「なるほど」とうなずいたものだ。 また、かつてこちらの九州電力のCMで、「煙も出ない、火も出ない、ガスも出ないし、汚れない〜♪」という歌が流れていたのだが、これは『勇敢なる水兵』の替え歌だった。 ぼくが高校の頃だったか、酒か何かのCMの中で、松村達雄が「遼陽城頭(りょうようじょうとう)夜はたけて〜」と歌っているシーンがはあったが、あれは印象的だった。 その歌『橘中佐』という歌は、あの頃けっこう流行ったような気がする。
高校野球の応援も軍歌が多かった。 『敵は幾万』なんかは今でもやっている。 しかし、今の高校生は、それが軍歌だということを知らないだろう。
なぜ今頃軍歌の話をするかといえば、実は昨日カラオケテープの卸元から『軍歌』のCDが入ってきた。 何が入っているのかと見てみると、ぼくが小さい頃に母が歌っていた歌がほとんどである。 『麦と兵隊』『紀元は二千六百年』『加藤隼戦闘隊』『空の神兵』『ラバウル小唄』『月月火水木金金』『雪の進軍』などなど。 中には、ぼくが中学の時に遠足で歌った『戦友』も入っていた。 そういうタイトルを見て、ふと昔を思い出したわけだ。
今時軍歌などと言い出すと、普通に引いてしまうものだ。 なぜなら、軍歌には戦争という負のイメージがあるからである。 しかし、それを言うなら、ロックだって元は不良の音楽だったし、矢沢永吉にいたってはヤンキーのカリスマ的存在である。 はたして今時、そういうイメージでロックや永ちゃんを聞く人がいるだろうか?
歌というものは文化なのだ。 時代背景がどうであれ、それをやっている人がどうであれ、いいものはいいのだ。 軍歌だってどんどん歌い続けていけばいいのだ。 きっと今の日本人が忘れている、『勇気』を与えてくれるだろうから。
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