「参議院選か。ということは、またあれが始まるのか」 今日はそんなことを思いながら家にいた。 「あれ」とは、ご無沙汰電話のことである。
以前、古い友人から突然の電話をもらったことがある。 「はい、しんたですが」 「おお、しんたかぁ!」 「えっ…」と、ぼくは電話の前で困った笑みを浮かべた。 あまり聞き慣れない声なのである。 「えーっと…」 「ああ、おれおれ」 「『おれ』…??」 「○○よ。○○」 「○○…さん?」 「前に一緒にバイトしてた」 「ああ、ああ!○○ね。久しぶりやのう」 「いやね、電話帳めくっていたら、しんたの名前を見つけてねぇ。懐かしくなって電話してみたんよ。元気か?」 「おかげさまで」 「奥さんは…。ああ、しんた結婚しとったんかのう?」 「いちおうね」 「そうか。あの時の彼女か?」 「ああ」
それからお互いの近況報告をし、昔の話に花が咲いた。 彼は「今度飲みに行こう」と言ったあと、間を置いて「ところで…」と話を変えた。 「今度選挙があるやろう」 「ああ」 「誰か入れる人決まっとるか?」 「いや、別に決まってないけど…」 「そうか。じゃあ××さんに入れてくれんかのう」 「××さん?」 「おう、公明党の」 ということで、この電話は『懐かしくなってかけた』ものでないことが判明した。 それと併せて、○○が学会さんだということも判明した。 もちろん「飲みに行こう」は口実である。 なぜなら、それから選挙のたびに電話が入るようになったのだが、一度も飲みに行ったことがないからだ。
嫁さんにも同じような経験があるらしい。 電話をかけてきたのは嫁さんの高校時代の同級生だった。 彼女は唐突に「選挙行くやろ?」と言った。 そこで嫁さんが「いや、その日は8時から仕事やけ行かれん」と答えると、その人は「じゃあその日、私が会社まで送っていく」と言う。 嫁さんが『おかしなこと言う人やね』と思っていると、彼女は「だから、会社に行く前に、選挙につきあって。で、公明党の××さんに入れてくれん?」 と言ったらしい。 電話を切ったあと嫁さんは、「大人しい人やったけど、まさか学会の人だとは思わんかった」と言っていた。 「迎えに来てくれるなら、いいやないか。別に××に入れんでもいいんやけ」 「よくないよ」 「で、その人どこに住んどるんか?」 「下関」 「えっ…」 海の向こうである。 嫁さんが会社に出る前に向かえに来る、しかもその前に選挙に行くとなると、彼女は6時過ぎに家を出なければならない。 熱心な信者さんである。
ということで、まもなくぼくと嫁さんにこの二人から電話がかかる。
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