『冷たい風が』
冷たい風が吹いている 服の隙間を刺してくる ついさっきまで君の温もりを 感じていたぼくに、風は ひとりぼっちの道で
夢ばかり追いすぎた ぼくに君は飽きたのかい もう少しぼくを信じて欲しかった いつまでもぼくを支えて欲しかった。君に! 叫んでみても届かない
狂ったように風は 大声上げて吹きまくる こんなに君のいたことが ぼくにとって大きなものだったなんて 寂しい雨が降っている
愛を知った男は じっと涙を堪えて 女の幸せを望むように 見え透いた笑顔で身を引く ぼくには、そんなことできやしない
ぼくは悲しいから涙見せる 本当に辛いから泣いてやる 雨よ、すべてを流しておくれ
この歌は、旧『歌のおにいさん』でも公開したことがないので、今回のプレイヤーズ王国が初めての公開ということになる。
まあ、簡単に言えば失恋歌である。 この歌を作った時は、ただのドラマだったのだが、それから何年か後に、この歌詞通りの体験をすることになる。
東京から帰ったぼくは、長崎屋でアルバイトをすることになる。 そこで働きながら、高校時代から好きだった人との再開を望んでいた。 が、現実は甘いものではなかった。 結局、長崎屋にいた一年、彼女と再開することはなく、半ば彼女のことを諦めていた。
ちょうど長崎屋を辞め、新しい会社に就職した頃だった。 長崎屋近くの会社で、高校の頃の同級生が働いていた。 新しい会社は、JRで通っていたのだが、よく彼女と駅ですれ違っていた。 彼女とは、高校卒業後に、よくいっしょに遊びに行ったり飲みに行ったりした仲だ。 また、彼女はぼくの歌を認めてくれた、最初の女性でもあった。 駅でのすれ違いの毎日が、ぼくに恋心を落としていった。 好きだった人が遠く感じるようになった時、ふと気づくと近くに彼女がいた、というドラマなどでよくあるパターンに、ぼくは陥ってしまったのだ。 いつしか、「友だちづきあいも長いし、この人でもいいな」と思うようになり、彼女との結婚を考えるようになっていった。
二度ほどデートに誘った。 まあ、デートと言っても、飲み屋に連れ回すだけのものだったが。 ところが、三度目のデートで、彼女の異変に気がついた。 何かソワソワして、落ち着かない様子なのだ。 「おかしいな」とは思いながらも、ぼくはそのことには無関心を装った。 その頃のぼくは、けっこう彼女にハマってしまっていたので、そのことを聞くのが恐ろしかったのだ。
それからしばらくしてからだった。 友人から、彼女の結婚話を聞いたのだ。 結婚相手と付き合いだしてから、すでに一年以上経っているということだった。 ぼくは独り相撲を取っていたわけだ。 「飲みに行った時に、言ってくれればよかったのに」と、ぼくは彼女を恨んだ。 が、元はといえば、付き合っている人がいるかどうか確かめなかったぼくが悪いのだ。
それを聞いた日、ぼくはやけになって、夜の街を飲み歩いた。 その時、ぼくの頭の中には、この『冷たい風が』が鳴っていた。 25歳の、晩秋のことだった。
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