頑張る40代!plus

2004年03月05日(金) デス歯科医院(後)

翌日、学校が終わってから、ぼくは歯医者に行った。
「昨日は、神経をとったばかりで、他の神経に響いたのかもしれん。今日はもう落ち着いているから、痛くないよ」と先生は、ニヤッと笑って言った。
ぼくはその言葉を信じて、口を開けた。
前日と同じ針が、ぼくの口の中に侵入する。
前日の記憶が蘇る。
「痛い!」
「痛いかね!?」
「やっぱり痛いです」
「そんなはずはない!」
「そんなはずあります。もうやめて下さい」
ぼくはそれ以来、その歯医者に行くのをやめた。
そして、歯医者自体に行くことが嫌になった。

さて、デス君は高校卒業後、歯科大に進学し、その後父親の後を継いだと聞いていた。
久しぶりに高校の近くを通った時、まだその位置に歯医者の看板がかかっていた。
が、何となく活気がなく見えた。
ふと、その真向かいに目をやると、以前はなかった新しいビルが建っていた。
よく見ると、そこに歯医者の看板がかかっている。
名前を見ると、おお、デス君の病院じゃないか。
ちょうど、虫歯で悩んでいたところだったので、「これは一度挨拶に行かんとならん」とは思ったのだが、どうも過去の記憶が蘇ってしまう。
しかも、同級生に口の中をいじられるのも、あまりいい気分がするものではない。
ということで、挨拶に行くことはやめた。

それからしばらくして、ぼくは街中でデス君に会った。
「デス君やろ?」とぼくが言うと、デス君はニヤッと笑って「お久しぶり」と言った。
ニヤッと笑うところは、まさに父親譲りである。
彼は鼻の下に、秋篠宮様のような髭を生やしていた。
畏れ多いことである。
思わず「無礼者、似合ってないぞ!」と言いかけたが、そこまで親しくないので、言うのをやめた。

今回、オナカ君にそこを紹介したのには理由がある。
もちろん、そこ以外の歯医者を知らないということもある。
が、一番大きな理由は、デス君の腕を知りたかったからである。
それをオナカ君に確かめてもらいたかったのだ。
オナカ君には悪いが、彼に実験台になってもらったわけだ。
もし腕が良ければ、オナカ君といっしょに、デス歯科医院通いを考えてもいい。

最初の電話がかかってから1時間後、治療が終わったオナカ君から電話が入った。
「終わったぞ」
「どうやった?」
「麻酔かけてから治療したけ、痛くはなかった」
「針とか使ったんか?」
「いや、レーザー使った」
「レーザー? 設備が売りなんかのう。で、デス君の腕はどうなんか?」
「わからん」
「そうか、わからんか…」
こうなったら、オナカ君の治療が終わるまで待つしかない。
まあ、ここまで何十年も虫歯を放っておいたわけだから、1,2ヶ月ずれても、治療の内容が変わることはないだろう。
オナカ君の顔が変形してないのを確認してから、デス歯科医院通いを考えることにしよう。


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