その間、学校には何度か行った。 いちおう教室の掃除や、卒業式の練習などをやった。 しかし、みなすでに心そこにあらずで、何となく白けた様子だった。 ぼくはそれを見て、「ああ、高校生活も終わったんだなあ」と思ったものだ。
さて、その卒業式の日の朝のこと。 その数日前から、額の真ん中にニキビが出来ていたのだが、いつまで経っても治らない。 「こんな顔で写真とか撮られたくない」と思い、思い切ってニキビを潰した。 ところが、そのせいで大変なことになっていた。 潰したところが赤く、しかもお多福豆大に腫れ上がってしまい、まるで大仏さんのようになってしまっていたのだ。 痛みを伴っていたので、放っておくことも出来ず、オロナインを塗りたくり、その上からカットバンを貼って、卒業式に向かった。 学校に着くと、会う人会う人から「しんた、お前、おでこどうしたんか?」と聞かれた。 その経緯を話すのも面倒だから、笑ってごまかしておいた。 しかし、これでは写真を撮るわけにはいかない。
式は体育館で滞りなく行われた。 ぼくは心の中で、最後のハプニングを期待していたのだが、それもなかった。 ただ、担任がぼくの名前を呼ぶ時に、ちょっと声を詰まらせたのを覚えている。 3年時の担任は非常に頑固な性格の先生で、校外でも有名だった。 ぼくは、そんな担任の下でもかまわずに毎日遅刻をしていたし、最後は最後で、クラスでたった一人だけ進路を決めないはでやきもきさせたし、まあこんな生徒だったから、やっとやっかい払い出来たと思って、感極まったのだろう。
『卒業』その3
面倒くささも手伝って ぼくは卒業という舞台に それまでしたことの何もかもが もうどうでもいいような気がして
そこからのことを考える 気力も残ってなくてね ただ馬鹿のように笑っていたよ それにしては白髪も増えたな
古い汗の染みこんでいる 床の上でみんな、 みんな上品ぶって座って 中には泣きながら校歌歌って
ぽつんと青空がのぞいていたよ それを見ても何も感じなかった もうそんな気力も残ってなくてね ただそこにいるのが馬鹿らしく思えた
後年、高校の卒業式を思い出して、こんな詩を作ったのだが、ぼくの卒業式は、こんな感じだった。 そう、ぼくはずっと空を眺めていたのだ。
式が終わり、一度教室に集まって解散となったのだが、ぼくは逃げるようにして学校を後にした。 もちろん、写真を撮りたくなかったからである。
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