取引先にもそういう、間の悪い人がいる。 その人は、決まってぼくが食事に行く直前にやってくるのだ。 こちらは早く食事に行きたいのに、彼のおかげでなかなか行けない。 しかたなく、彼の来る日は時間をずらそうと思い、1時間ほど食事の時間を遅らせたことがある。 ところが、そういう日に限って、彼も1時間ほど遅れてやってくるのだ。 そこで、「あんた、おれに飯を食わさんために来よるんね」とつい嫌味を言ってしまう。 彼は頭を掻きながら、「いや、そういうつもりじゃないんですけど…」と言う。 が、次の週も、彼は決まってぼくの食事の直前にやってくるのだ。
また、こういうこともある。 休憩時間中に、何人かでお菓子を分けて食べるとする。 そういう時、決まって呼ばれもしないのにやってくる人がいる。 その人が入ってきた時、ぼくたちは「あっちゃー」という顔をして、お互いの顔を見合わせる。 まあ、別にその人にお菓子を分けてやる義理もないのだが、結局、一人だけ何もないのもかわいそうだから、ということでその人にお菓子を分けてやることになる。 ちなみに、そういう人に限って、図々しい人が多い。 「悪いねえ」とは言いながらも、決して遠慮はしないものである。 その人が去ったあと、ぼくたちは、いつも「あの人、いつもいいところで顔だすねえ」とか「鼻が利くんやろうねえ」などと、小悪口を言い合っている。 一方でその人は、「ラッキー!!」とか「タイミングがよかった」とか思っていることだろう。
そう、『間の悪い人』は、裏返せば『タイミングのいい人』なのである。 前述の友人も、電話をかけることが彼の目的だったわけだから、ぼくに「間の悪い男」と思われながらも、結局目的を達成している。 また、取引先の人も、もしぼくが食事に行っている時に来たとしたら、ぼくが帰るまで待つか、出直さなければならない。 ということは、ぼくにとって間の悪い時間であったにしろ、彼の中ではタイミングがよかったわけである。
そういえば、ぼくはいつも間を外した生き方をしていると思っている。 先の論法でいくと、そういう人は、他人にとっては「間がいい人」ということになる。 そのせいだろうか? ぼくは、いつも損ばかりしているような気がする。
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