高校3年生の義理の甥っ子が、ようやく進路を決めた。 実は冬休み前に、甥っ子の進路について、相談に乗る機会があったのだが、本人はぼくの高校時代と同様、自分の進路について何も考えていなかった。 焦っているのは周りばかりといった状況だった。 本屋に行っても大学受験の参考書を見るでなく、ぼくが意見をしても上の空。 まあ、ぼく自身、その年齢の頃にフラフラしていたから、あまり説得力がなかったのだろうが。
それならということで、ぼくはとっておきの提案をした。 それは、「自衛隊に入れ」である。 「え、自衛隊?」 「おう、そこで2年間鍛えて来い」 「自衛隊ねぇ…」 彼はあまり気乗りしない様子だった。 というより、突然自衛隊と言われたから、ピンと来ない様子だった。
「別に入ったからといって、すぐにイラクに行かせるわけじゃないんぞ」 「そりゃそうやろうけど…」 「まあ、仮にイラクに行ったら、給料とは別に、手当が3万円付くらしいけど」 「そうなん」 「おう、一ヶ月行ってみ、90万円もらえるんぞ」 「ふーん」 別に興味がないように見えた。 金では釣られないようだ。
そこでぼくは、今彼が一番興味のある話をしてやった。 「ところで、運転免許は取ったか?」 「いいや」 「そうか。金がかかるけのう」 「うん」 「とる気はあるんやろ?」 「当たり前やん」 「そういえば、自衛隊に入ると、運転免許証がただで取れるぞ」 「え、免許ただで取れると?」 急に甥っ子の目の色が変った。 「そのくらい常識やろ」 「そうか、免許がただで取れるんか…」 「運転免許だけじゃない。他の資格もただで取らしてくれるぞ」 「へえー」 「とりあえず、そこで2年頑張ってみてん。それから勉強したければ大学に行けばいいんやし、就職したければ就職すればいい」
「運転免許がただで取れる」 その言葉で、甥っ子の心が動いたのかどうかは知らないが、それから後、彼は夢のない大学進学を諦めた。 そして、他の人の説得もあり、ついに自衛隊に入る決心をしたのだった。
まあ、国を守るという気持ちを持って入隊するのがまっとうで、免許をただで取るために入るというのは邪道ではある。 しかし、そういうやましい気持ちも、2年という歳月がまっとうなものに変えてくれるだろう。 甥っ子の軍服姿が、今から楽しみである。
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