店に帰って1時間ほど経ってから、ぼくの携帯電話が鳴った。 「誰からだろう?」と電話をとってみると、例の警官からだった。 「あ、しんたさんですか? こちら○○交番ですが、携帯電話の落とし主が見つかりました」 「ああ、それはよかった」 「で、さっき書類のコピーをあげたでしょう。それ持ってきてもらえませんか?」 「え、今からですか?」 「今、来られませんか?」 「もう抜けられませんから」 「そうですかぁ…」 「今日じゃないといけないんですか?」 「いえ、いつでもいいですよ」 「じゃあ、明日にでも…」 「ああ、交番は24時間開いてますから、夜でもかまいませんよ。今日来てもらえますか?」 「今日ですかぁ…。仕事が終わってからでもいいんですか?」 「はい、かまいません」
電話を切った後で、ぼくは思った。 「家の電話番号は教えたけど、携帯の電話番号は教えてない。何でわかったんだろう? ‥‥あっ、もしかしたら」 ぼくは家に電話をかけてみた。 「はい」 妻の声だ。 仕事が早く終わって、もう帰っていたのだ。 「おい、さっき警察から電話がなかったか?」 「ああ、あったよ」 「で、携帯番号、教えたんか?」 「うん。『会社に電話したらいいでしょ』と言ったんやけど、しつこく聞くんよ」 やはりそうだったか。 妙に真面目すぎる警官だったから、そんなことだろうと思っていた。
そういうわけで、ぼくは帰りに遠回りをしなければならなくなってしまった。 書類を届けに行くと、さっきとは別の警官がいた。 「あのう、これ持ってきました」 「ああ、そうですか。それはありがとうございました」 手続きにあれだけの時間がかかりながら、最後は実に素っ気ないものだった。
家に帰ってから、いつも携帯電話の着信履歴やメールを見直している。 必要な人の電話番号やメールアドレスを登録し、ワン切りや迷惑メールを削除するためである。 「さて、これをどうしようか?」 そう、110番である。 消すべきか、否か? さんざん迷った末、結局残しておくことにした。 警察からの謝礼だと思うことにしたからである。
|