頑張る40代!plus

2004年01月29日(木) 交番(中)

15分間、ぼくは何もすることなく、イスに腰掛けていた。
交番内には灰皿を置いてないので、タバコを吸うわけにもいかない。
机の上に夕刊が置いてあったが、それを見る気もしない。
何気なく壁を見ていると、そこに『この人を捜しています』と書いたポスターがあった。
幸せ薄そうな、貧相な女性の写真がそこに載っていた。
その女性たちは、みな指でピースサインをしているのだが、それがまた哀れを誘った。
ぼくはそのポスターを見ながら、なぜか辛くなり、目を机の上に落とした。

そうこうするうちに、警察官がやってきた。
「お待たせいたしました」
顔を見ると、まだニキビが残る若い警察官だった。
彼はおもむろに書類を取り出し、一人でブツブツと言いながら書類を書き始めた。
「あのう、ご住所はどちらですか?」
「ぼくのですか?」
「はい」
「会社の住所じゃだめなんですか?」
「え?」
「ぼくが拾ったわけじゃないんだし、謝礼なんかいりませんから…」
「ちょっとお待ち下さい」

彼は本署に電話をかけた。
「あのう、こういう場合、どうすればいいんですか?」と、ぼくが言った旨を伝えた。
「はい、‥‥、はい、‥‥、はい、‥‥、ああ、書かなくていいんですね。はい、わかりました」
受話器を置いてから、彼は「ここは書かなくていいそうです」と言い、書類を書き進めていった。
「…それにしても面倒ですねえ。前に免許証を届けた時は、もっと簡単に終わったんですけど」
「ああ、携帯電話の場合は財産性があるので、現金などと同じ扱いになるんですよ」
そう言いながら、彼の手はまた止まった。
そして、また一人でブツブツと言いだした。
そして、また本署に電話をかけた。
「はい、‥‥、はい、‥‥、はい、‥‥。はい、わかりました」

しばらくしてから、彼のブツブツは終わった。
ようやく、すべてを書き終えたようだった。
「お待たせしてすいませんでした。書き終わりましたので。…あ、参考までに住所と電話番号教えてもらえませんか?」
「ぼくのですか?」
「はい」
ここで拒むと、また時間が長引くので、ぼくは素直に住所と電話番号を教えた。
「確実に相手に届けますから」
そう言って、彼はぼくに書いたばかりの書類のコピーを渡した。
「はい、お願いします」
書類を書くのに、およそ20分かかっているから、ぼくは30分以上も交番にいたことになる。


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