東京にいた頃、ぼくは食うや食わずの生活を強いられていた。 強いられていたは大げさだが、要は自分でそういうふうにしてしまっていたのだ。 原因は、ぼくの金遣いの荒さである。 バイト代や仕送りなどで、まとまったお金が入ってくると、いつも飲みに行っていた。 しかも、それは一日では終わらない。 一週間くらい続けてである。 そんな具合だったので、お金はすぐに底をついてしまった。 ひどい時には、2千円で二週間を過ごすこともあった。 そういう苦しい経験をしているのに、あいかわらずぼくは、お金が入ると飲みに出かけるのだった。
「これではいかん」と反省したのは、東京で生活を始めてから1年9ヶ月、つまり九州に戻る3ヶ月前のことだった。 とはいえ、その1年と9ヶ月の間に作った、数多くの飲み友だちとの関係を壊したくない。 しかし、そういう生活を続けていく限り、ぼくはのたれ死んでしまう。 「では、どうしたらいいか?」 ぼくはアルコール漬けになった頭で必死に考えた。
考えること一日、ようやく結論がでた。 それは、「少なくとも一日一食はしよう」ということだった。 そのためには、お金が入ったら、食料を買いだめしておくことだ。
ということで、下宿近くの西友ストアに行って、何を買いだめするかを決めることにした。 今でもそうだが、ぼくはスーパーに入ってから、まず見るのがラーメンである。 そのラーメンに当りがあった。 『西友ラーメン』というのが売っていた。 そのラーメン、他のラーメンに比べるとはるかに安いのだ。 「これは使える」 しかし、ラーメンだけでは空腹感が増すだろう。 そこで、もう一品追加することにした。
「何がいいだろう」と店内を回ってみると、そこに最適なものがあった。 『サトウの切りもち』である。 これ2切れでご飯一杯分に相当する。 「これはいい」 ラーメンと餅だけで満腹になるとは思えないが、それでも空腹感は充分に満たすことが出来るだろう。 我ながらいいアイデアだと思ったものだった。
さて、待ちに待ったお金が入った日、ぼくはさっそく西友ストアに行って、ラーメン30食とサトウの切りもち何パックかを買い込んだ。 「これで、食いっぱぐれはない」 しかし、この計画がいかに惰弱な計画であるかということを、この時ぼくは知るよしもなかった。
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