こんなぼくでも、東京に出た当初は自炊をしていた。 そのおかげで、最初の頃、ほんの少しの期間だったけど、計画的にお金を遣うことができた。 まあ、それが出来たのは、まだ友だちもいなかったということのほうが大きかったのだが。
で、どんな料理が出来るのかというと、みそ汁と目玉焼き、それとラーメン(もちろんインスタント)である。 。 みそ汁と目玉焼きは東京に出てから覚えた。 一方の、ラーメンは年季が入っている。 何せ、出前一丁の出端の頃から作っているから、東京にいる頃には、すでに10年以上のキャリアがあったのだ。 だから、ラーメン一つ作るのに、かなり凝ってしまう。
西友ラーメンを作る時でさえ、これに玉子とキャベツを加えて、ガーリック入れ、隠し味に酒をちょっと入れてみるとか、いろいろ工夫していた。 その工夫が落とし穴だった。 そのために玉子を買い、キャベツを買った。 ガーリックがなくなればガーリックを買いに行き、「酒が足りん」と思えば酒を買いに行く。 そんなことをやっていたので、ラーメンだけで終わるはずの食費が、それだけでは終わらなくなってしまった。 もちろん、飲みごとは定期的にやっていたが、ラーメンの具や酒などの余計な出費があったせいで、通常の半分くらいしか参加出来ない。 そのため、友人からは「しんた、最近つきあい悪いなあ」と言われる始末だった。
もう一つの誤算は、いくらモチを入れているとはいえ、ラーメン一杯では足りなかったことだ。 下宿で食事をする時は、8時頃に食べていた。 その後、風呂に行ったり、ギターを弾いたりして、夜を過ごしていた。 寝る時間は特に決めていなかった。 眠たくなった時に寝ることにしていたので、10時に寝ることもあれば、深夜4時5時、ひどい時には徹夜することもあった。 だいたい、深夜3時くらいに寝ることが一番多かったようだ。 それまで起きていると、当然空腹と闘わなければならない。 その空腹感のピークは12時前後だった。 朝昼と抜いているので、その空腹感たるや尋常ではない。 もう、吠えたくなるくらいだった。 それでも、最初のうちは我慢していた。 が、早くも3日後には限界がやってきた。 我慢して寝てしまおうと思ったが、自制心が利かない。 そこで、「今日は特別に腹が減っているんだ。また明日から一食に戻せばいい」と自分に言い聞かせ、禁断の翌日分のラーメンに手を出した。 とはいえ、罪悪感からか、その日はモチを入れなかった。 玉子もキャベツも入れなかった。 ただ、味の都合上、ガーリックと酒だけ入れた。
こういう空腹感の元で食べるラーメンは、本当においしいものである。 その日は、その感触を充分に味わった。 それが自滅の第一歩だった。
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