さて、こういう日に限ってろくなことが起きない。 ぼくが接客していると、他のお客さんが「ちょっと来て」と言った。 こういう場合は先客優先の鉄則があるので、もちろん「お待ち下さい」と言って待ってもらう。 ところが、そのお客さんは食い下がる。 「早く来て下さい」 「少しおま…」 「火が、火が出てるんですっ!」 「ええっ!?」 慌てて、ぼくはお客さんの呼ぶ方に行った。
火がついている。 セルロイド製のアクセサリーが、箱の上で燃えているのだ。 こういう仕事を始めて20年以上経つが、こういうことは初めてである。 ここで、頭痛の影響が出てきた。 燃えている火を見て、一瞬どうしていいのかわからなくなったのだ。 幸い手がつけられないほどの火ではなく、ろうそくの火くらいの小さなものだったため、とりあえずその火が他の商品に燃え移らないようにしようと思い、燃えている商品が入っている箱ごと、商品の置いてない安全な場所に移動した。 すると、火はほどなく消えた。
後で原因を調べてみたのだが、その火は、燃えた商品の横にあったライターで付けられたものであることがわかった。 おそらく子供のいたずらであろう。
さて、火のほうは難なく片づき、被害のほうも極力少なくてすんだが、ぼくの被害は大きかった。 燃えている商品を運んでいる途中に煙(有毒ガス)を吸ったため、頭痛がさらにひどくなったのだ。 そして、そのひどい状態が夜まで続いた。
「よいお年を…」 午後8時35分で仕事納めとなった。 「早く帰って、とりあえず寝よう」と、車を飛ばして帰った。 家に着いて、すぐに横になろうとした。 「待てよ、今日は何かあったなあ」 と割れかかった頭で考えた。 「あ、そうか。曙とボブ・サップの試合があったんだ」 これを見ないと寝られない。 ということで、あんなあっけない試合を見るために、2時間近くも無駄な時間を費やした。
そうこうしているうちに、実家から電話がかかった。 そばを作ったから食べに来いと言うのだ。 いよいよ寝ることが出来ない。 しかたなく嫁さんと二人で、寒空の中に出た。 「これで、風邪は必至やのう…」
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