「A−2L(商品の型式)を28日までに5ケース入れて下さい」 ぼくが取引先に電話を入れたのは、今月の19日のことだった。 「はいわかりました。A−2を5ケースですね。さっそく手配しておきます」
それから5日後の24日。 その商品がまだ入ってないのに気がついたぼくは、その取引先に確認の電話を入れた。 「はい、A−2Lのほうはメーカーに直送手配を取っていますので、遅くとも26日までには着くと思います」 「26日、金曜日ですね」 「はい」
25日に入らなかったので、「やっぱり27日入荷か」と思い、もうそのことには触れなかった。 26日、つまり昨日、ぼくは休みだった。 会社から電話がかかってくることもなかったので、のんびりとことし最後の休日を過ごした。 もちろん、例の『A−2L』のことは忘れていた。
さて、今日のこと。 朝、会社に着くと、倉庫の真ん前にA−3Lが積まれていた。 「ああ、昨日着いたんだな」 ぼくはそう思って、制服に着替えに行った。 再び倉庫の前に行って、記憶をたどった。 「確か5ケース頼んだよなあ…」 そこには3ケースしか積まれてなかったのだ。 荷札を見ても、ちゃんと『5個口』と書いてある。 ぼくは『誰かが気を利かして、倉庫の中に入れてくれたのかも』と思い、倉庫の中を探してみた。 ところが、どこにもその商品が見あたらないのだ。 ぼくは売場に行き、もう一度ぼくが発注した数量を確認した。 確かに5ケースとなっている。
もしかしたら昨日欠品が出ていたのかもしれないと思い、昨日商品を受け取った人に状況を聞くことにした。 あいにく、その人は休みだった。 そこで、携帯あてに電話をかけた。 「もしもし、昨日O社の商品が入ったやろ」 「ええ」 「実は3ケースしか来てないんよ」 「ああ、運送会社の人が積み忘れたとかで、後で持ってくることになっていたんですよ」 「ああ、積み忘れか」 「はい。まだ来てないですか?」 「うん、まだ来てない」 一応安心した。
事情がわかったので、とりあえず運送会社のほうに、ちゃんと今日持ってきてもらえるかどうかの確認を取っておこうと思った。 ところが、送り状が見あたらないのだ。 倉庫、事務所、売場、すべて探してみたが見あたらない。 「ああ、きっと数が揃ってなかったけ、持って帰ったんやろう」 しかし、送り状がなければ、運送会社に問い合わせることが出来ない。 そこで、今度は取引先に確認を取った。 「先日の商品ですけど、5ケース注文してましたよねえ」 「ああ、A−3Lですね。はい、5ケースでしたよ」 「欠品とかで、3ケースしか届いてないんですよ」 「えっ? 運送会社には問い合わせてみましたか?」 「いや、送り状が見あたらないんですよ。おそらく持って帰ったんじゃないかと思うんです。メーカーのほうに控えがあるでしょ」 「ああ、じゃあ、メーカーに連絡して、送り状の控えをFAXさせましょう」 「お願いします」
しばらくして、メーカーから送り状の控えが届いた。 確かに5個口で出ている。 さっそく運送会社に連絡を取った。 ところが、何度電話しても話し中である。 やっと繋がったのが、1時間後だった。 「もしもし、×社ですけど」 「お世話になります」 「O社の荷物、ああ問い合わせ番号『○○−×××』の件なんですけど、昨日積み忘れがあったとかで2ケース足りないんです。夜持ってきてくれるようになっていたらしいんですが、まだ届いてないんです」 「それは申し訳ありません。さっそくお調べしてご連絡いたします」
1時間ほどして、ぼく宛に電話が入った。 「昨日、4ケースそちらに持って行ってますねえ」 「え? 3ケースしかありませんよ」 「いや、ドライバーに聞いたら、4ケース置いてきたということでしたが」 「誰が受けたんでしょうか?」 「○さんのサインが入ってますが」 「ああ、そうですか。じゃあ、○さんに聞いてみます」 「で、欠品分なんですが、間もなくそちらに着くと思いますので、お待ち下さい」 「はい、よろしくお願いします」
電話を切った後、ぼくはすぐに○さんの所に行った。 「昨日、何ケース入ってきましたか?」 「確か4ケースやったと思うけど」 「え? じゃあ、1ケース足りん」 「3個しかないと?」 「はい」 今度は、○さんと倉庫の中を探し回った。 やはり見つからない。 そうこうしているうちに、運送会社の人が欠品分を持ってきた。 「しんた君、商品が入ったよ」 持ってきたのは1個だけだった。
○さんが言った。 「もしかしたら、昨日売れたかもしれんよ」 「まさか…」 「一応調べてみよう。JANコードわかる?」 「31日の売り出し分ですから、登録されていると思いますよ」 「ああ、これか」 JANコードを打ち込んでみると、37台売れていることになっている。 「1ケースにいくつ入っとるんかねえ?」 「6個ですけど」 「売れたんやないんね?」 「いや、うちの女の子は触ってないと行ってましたよ」 「おかしいねえ。他に誰か触る人はおるかねえ?」 「そういえば、バイヤーが来たと言ってました」 「バイヤーが売ったんかねえ」 「そんなことはないでしょう。あ、もしかしたら、どこかの店に持って行ったんかもしれん。ちょっと振替伝票見てみます」 しかし、振り替えた形跡はない。
その時だった。 ぼくはあることに気がついた。 「確か、さっき打ち込んだJANコードは、A−2Lのものだったよなあ」 ぼくはチラシを確認した。 チラシにはちゃんと『A−2L』となっている。 注文書を見ても、『A−2L』である。 で、届いているのはA−3L…。 受注ミスである。 さっそく取引先に電話をかけた。 が、取引先は今日が仕事納めのため、もう誰も残っていなかった。
さて、どうしよう。 31日はこのA−3Lを売るしかない。 それは、今となってはどうしようもないことである。 通常の価格もA−3Lのほうが上なので、それを安く買えるのだから、それに対しての苦情は来ないだろう。 問題は、その数量が足りないということだ。 いくらいい物が安く買えても、肝心の物がなければ話にならない。 盗られたとは考えにくいことである。 明日、もう一度時間をかけて探してみることにしよう。
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