何日か前の話、ぼくは携帯電話を持つようになってから、初めての失敗をした。 携帯を水に濡らしたのだ。 濡らしたというより、水の中に落としたと言うほうが正しい。 その落とした場所が悪かった。 使用後、水を流したばかりの便器の中。 もちろん、大の方である。
普段、その最中に携帯を手に取ることはなく、おとなしく作業着のポケットの中に収まっている。 もちろん、ポケットのボタンはかけたままだ。 ところがその日、たまたま売場から電話が入ったのだ。 しかたなく携帯をポケットから出した。 「すぐに来てくれ」と言う。 ぼくは急いで、水を流して立ち上がった。 その時、前屈みになったのがいけなかった。 ポケットから、携帯電話がゆっくりと便器の中にこぼれていった。 「カチャッ」 空しい音がトイレの中に響く。 ぼくは慌てて携帯を拾い上げ、洗面所でそれを洗った。 携帯の液晶画面が徐々に薄くなっていく。 そのうち、完全に消えた。 その後、ドライヤーで乾かしたものの、一向に復旧する兆しは見えなかった。 よく見ると、液晶画面の下の方に水滴のようなものがある。 「もしかして、これが原因か」と思ったぼくは、さらにドライヤーの熱風を吹きかけた。 しかし、水滴はそのままだった。
「時間をかければ、水滴は取れるかもしれん」と、ティッシュを敷いて、一時間ほど携帯を寝かすことにした。 その間に、ドコモショップに電話をかてけて、何かいい方法がないか尋ねてみた。 「しんたですが」 「ああ、どうも。どうされましたか?」 「実は、携帯を便器の中に落としてですねぇ」 「あらら。で、乾かしてみましたか?」 「何度もドライーヤーを吹き付けてみたんやけど、電源が入らんとですよ」 「そうですか。じゃあ、どうしようもありませんね。いつ買ったんですかねえ?」 「今年の8月1日」 「ああ、買い換えまで、あと2ヶ月ありますねえ」 もちろん、すぐに買い換えることは出来るのだが、半年経たないと、ドコモはイニセンティブの適用をしてくれない。 つまり、定価で買わなければならないのだ。 「しかたないですね。じゃあ、2月まで以前使っていた機種を使うことにします」 「そうですね」
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