免許証を拾ったのは、今回で三度目である。 拇印を押した前回と、もう一回は6年ほど前だ。 その時は最悪だった。
拾ったのは今回と同じく12月だった。 ある日、什器の下に紙袋のようなものがあるのを見つけた。 しかし、その時は気にもとめなかった。 年末で毎日たくさんの商品が入荷していたため、それどころではなかったのである。
その紙袋に注目するのは、いよいよ暮れも押し迫った12月の末のことだった。 最初に発見した時から、もう2週間以上経過していた。 その頃になると商品の入荷も一段落していた。 「この間からあるんやけど、あの紙袋、何かねえ?」と、ぼくは売場の女の子に尋ねた。 「え、しんたさんが置いてるんじゃないんですか?」 「おれ、知らんよ」 「私も知りません」 「ゴミかねえ」 「かも知れませんね」 と、什器の下から紙袋を取り出し、開けてみることにした。
「あっ…」 中には手帳と小物が入っていた。 「誰のだろう?」と、手帳を開いてみると、そこから意外なものが出てきた。 運転免許証である。 今回と同じく、若い女性のものだった。 ぼくは再び売場の女の子に尋ねた。 「この人、知っとう?」 「知りません」 「困っとるやろねえ。すぐ知らせてやらんと」 ぼくはさっそく電話帳をめくり、その人の番号を探し当てた。
「もしもし、○○さんですか?」 「はい」 「こちらは○○店ですけど、免許証を見つけたんですが…」 「えっ!?」 一瞬の沈黙の後、相手は急に語気が強くなった。 「どこにあったんですか!」 「什器の下ですけど」 「何で今頃電話してくるんですか!?」 「何でと言われても、見つけたのは今日なんですが」 「私、無くしてから何度も、おたくの店に電話したんですよ!」 そう言われても、こちらにはそういう情報は入ってきてない。 仮にそういう情報が入ってきていたとしたら、当然探しただろうし、もっと早く紙袋を開けていただろう。
「警察にも届けて、再発行したんですよ。どうしてくれるんですかっ!」 『どうしてくれるんですか』と言われても、もうどうしようもない。 返す言葉もなく、こちらが黙っていると、相手は憮然とした口調で「すいませんでした。じゃあ、後で取りに行きますから」と言って、電話を切った。
善意で電話しているのに、まさか怒鳴られるとは思わなかった。 見つけるのが遅れたのは、確かにこちらの落ち度かもしれない。 しかし、そちらも何度電話したのかは知らないが、大切なものなのだから、電話で確認するだけではなく、実際に店に来て探すべきではないだろうか。 そんなことを考えていると、無性に腹が立ってきた。 さすがに、その日は一日、いい気分がしなかった。
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