朝、店のカウンターに落とし物が届いていた。 中身は運転免許証だった。 女性のものである。 パートさんが住所を手がかりに電話帳を調べていたが、該当する人はいなかった。 当然104に電話しても、登録がないとのことだった。 そこで今日一日待って、もし取りに来なかったら、夜にでもぼくが交番に持って行こうということになった。
別に交番に届けなくても、直接相手の家に届ければよさそうなものだが、変に恐縮されてお礼攻撃を受けるのも嫌だし、逆に変に警戒されるかもしれない。 どちらに転ぶかはわからないが、物が物だけに、相手もサラリと流すことはしないだろう。 そういう場合は、その専門である警察に届けるのが一番である。 警察に任せておけば、嫌でも処理してくれるだろう。
今日一日、とうとう彼女は免許証を探しに来ることはなかった。 ということで、夜、閉店前にぼくは交番へ向かった。 「こんばんはー。○○店の者です」 「はい、どうされました?」 「落とし物なんですけど」 「どんな落とし物ですか?」 「免許証です」 「それはありがとうございます」 そう言うと、警察官は一枚の紙を出した。 「こちらに、おたくの名前と住所を書いて下さい」 ・・・ 「書きました」 「では、こちらにもお名前を書いて下さい」 そこには謝礼を放棄する旨が書かれていた。 謝礼などいらないので、ぼくはさっさと名前を書いた。 「書きました] 「ご苦労様です。では、ちゃんと先方に渡しておきますので」 「お願いします」
この間3分ほどだった。 何ヶ月前かに、同じく免許証の落とし物を交番に届けたことがあるが、その時はもっと時間がかかった。 そう、捺印させられたのだ。 シャチハタではだめだということで、拇印を押すことになった。 別に拇印を押すことに抵抗はないのだが、あまりいい気分はしなかった。 それに比べると、今日はかなりお手軽だった。
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