この会でのぼくの役どころは、ウエーターだった。 各期のOBの所に行って酒やジュースの注文を取り、そこに持って行くのだ。 何といっても恥ずかしかったのが、エプロンをつけての作業だった。 しかもそのエプロンは同期生全員お揃いなのだ。 当時ぼくは、まだ個性だの何だのにこだわっていた頃だったから、人と同じ物を着けることをあまり好まなかった。 そういう理由から、最初は「いい歳してこんなエプロンを着けなくてもいいのに」、と思いながらダラダラとやっていた。 ところが、やっていくうちにだんだん面白くなっていき、最後にはいっぱしのウエーターになっていた。
特によく声をかけられたのが、戦前に、我が校の前身である高等女学校で青春時代を過ごされた大先輩たちからだった。 「にいちゃん、こっちビールが足りんよ」 「こっちにもビール持ってきてー」 「ウィスキーはまだね!?」 その都度、「わかりました。すぐにお持ちしまーす」と応対している自分がいる。 職業柄、ぼくはお年寄り相手をけっこうやってきているので、こういう人たちの応対は、わりと得意なほうである。 そのうち、大先輩たちから、「あのにいちゃんに頼んだら、すぐに持ってきてくれるよ」という声が上がり、気がつくとちょっとした人気者になっていた。 同期の者からも、「しんた、お前おばあちゃん達に人気があるのう」とからかわれていた。 残念だったのは、大先輩に捕まったために、若い人たちのところに行けなかったことだ。
ぼくがウエーターに精を出していたのにはわけがある。 飲み物の置いてある場所には、例の好きだった人がいるからだった。 何度か二人きりになった。 そのつど、ときめくものがあった。 が、そこまでである。 今更「好きだった」などと言っても何の価値もないし、そこからの進展が望めるわけでもない。 しかし、ずっとこの日を夢見てきたのである。 このまま何も話さなかったら、またいつ逢えるかわからない。 そこで勇気を振り絞ってこう言った。 「おれ、おばあちゃんに人気あるっちゃ」 何でこういう時、もっと気の利いたことが言えないのだろう。 結局、その日彼女と交わした言葉は、これだけだった。
会も終わり、最後に当番期生による校歌の合唱となった。 元々1番以外の歌詞を覚えていなかったのだが、その時には1番の歌詞までも忘れていた。 まあ、そこに居合わせた人のほとんどがそうだったのだろう。 周りはみな歌詞カードを見て歌っていたのだから。
会がお開きとなり、2次会会場に移った。 当然彼女は来るものと思っていた。 が、見当たらない。 人に尋ねようとも思ったが、気があるんじゃないかと詮索されるのも嫌だったのでやめた。
ところで、学年全体でやる同窓会というのは、どうしてこう白けるのだろう。 同じ時期に同じ学校にいたとはいえ、共通の話題というのは、意外と少ないものである。 クラスによっても話題が違うし、クラブによっても話題が違う。 ある人が司会をしたりすると、どうしてもその人の所属していたグループの内輪ネタとかに走ってしまう。 違うグループに所属していた人間にとっては、まったく知らないネタなので、ぜんぜん盛り上がらない。 やはり、同窓会というのは気心の知れた者同士で盛り上がる方がいいと思う。 とはいえ、好きだった人に逢えるチャンスもあることだしねぇ。 ま、どっちでもいいか。
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