2003年09月07日(日) |
9月の思い出 その6 |
この会社に入社して3週間が過ぎた。 4週間目の日曜日に、いよいよ初めての出張に出かけることになった。 総勢十数名での出張だった。 行き先は、先にぼくが電話帳を盗みに行った熊本県北部で、引率は予定通りデスクSが行った。
その日の午後、西鉄福岡駅から電車に乗って出発、大牟田で電車を降り、そこからバスに乗った。 宿舎に着いたのは、その日の夕方で、宿舎は玉名駅前にある小さな旅館だった。 旅館に着くと、さっそく部屋の割り振りがあった。 何とぼくはデスクSといっしょの部屋である。 「これは一波乱起きそうだ」、そういう思いが頭の中を駆けめぐった。
仕事は翌日から行われた。 朝、デスクから電話賃と交通費を渡され、活動開始となった。 まず電話である。 ぼくは駅前の公衆電話に行き、電話帳をめくった。 そして、片っ端から電話をかけた。 1時間ほどして、ようやく1件の当たりがあった。 荒尾にある、浄土真宗のお寺だった。
さっそく駅から電車に乗り、荒尾へと向かった。 玉名から荒尾までたった三駅ほどだったのだが、一駅一駅の距離が長い。 北九州市内だと一駅の所要時間は長くても3〜4分程度である。 ところが、このへんは一駅の所要時間に10分程度かかってしまう。 ということで、荒尾に着くまでに30分以上もかかってしまった。
とはいえ、待ち合わせ時間には間に合った。 寺に着くと、さっそく住職が出迎えてくれた。 ぼくは本の主旨を説明し、インタビューへと移った。 ところが、この取材の実に退屈なこと。 古い寺ではあったが、住職は現代的な思想の持ち主で、「檀家が何軒あって…」、「寄付がどのくらいあって…」などという自慢話ばかりしている。 そんな話を聞きに来たのではない。 こちらとしては、若い頃の苦労話や現在の仏教界のありかたなどを聞きたかったのだ。 そこで、こちらから話題を変えることにした。 「実は私の家も浄土真宗なんですよ」 住職は、そこで初めて自慢話をやめ、親鸞や蓮如などの話をしだした。 しかし、一般的な話ばかりで、記事になるような話はほとんど聞けない。
退屈だったとはいえ、いちおう取材を終えたぼくは、最後に掲載費の話をした。 「今までの話をまとめて記事にしたいと思うんですが、この本への掲載費は24万円ほどかかりますが、どうされますか?」 そこで住職は奥さんを呼んだ。 「この人も真宗の檀家さんで、今度この寺のことを本に載せたいと言ってきたんだけど、どうする?」 住職は乗り気だったのだが、どうも決定権は奥さんが握っているらしい。 「いい話じゃないですか」 「でも、本に載せるためには24万円ほどかかるらしい」 「24万…」 「ああ」 「お金がかかるんですか。それならお断りしましょう」
「女房がああ言うもんで、残念ですが、お断りします」 とはいえ、住職は未練たらたらだった。 そういうことで、初日の活動は失敗に終わった。
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