2003年09月03日(水) |
9月の思い出 その2 |
それから1週間は研修期間だった。 デスクと呼ばれる人たちが、入れ替わりでぼくたちの教育をした。 そこでいちおうライターの心構えなどを習ったが、何かわざとらしく感じたものだった。 「フリーライターとは、振りをするライターのことだ。その振りをするためにも、プライベートな本名は捨てろ。この会社では、すべてペンネームで呼ぶことになっている」 ということで、最初の宿題はペンネームを考えることだった。 しかも、ありきたりな名前ではなく、なるべく印象に残るような名前にしろという。
当時ぼくは、いろんなペンネームで詩の投稿をやっていたので、ペンネームには事欠かなかった。 そこで、その当時一番気に入っていた『山原ほうぼう』というペンネームを使うことにした。 すると、デスクはそれが気に入らないという。 「しんた、なんだこのペンネームは!? こんな芸能人のような名前を使う奴はものにならんぞ。他のを考えてくるまで、お前の名刺は作らん」 ぼくは憮然とした。 「何とか言いながら、充分印象に残っているじゃないか」、そう思いながら、別のペンネームを提出した。 新しいペンネームは、本名に近いものだった。
その期間中、もう一つ宿題を出された。 『喫茶店』というタイトルの文章を書いてこいというのだ。 ちょうど喫茶店にはまっていた時期だったので、喫茶店ネタには困らなかったが、普通の作文のような文章は苦手である。 いろいろ考えたあげく、すべて「」括りの会話文を書くことにした。 この日記では頻繁に使っているが、会話文はその時初めて試みたものだった。 内容はたわいのない日常会話だったものの、会話の中に喫茶店の雰囲気を盛り込むことには苦労した。 原稿用紙にして4枚。 あまり長くなってもいけないので、その程度でやめておいた。
提出したのは、二日後だった。 すると、またしてもペンネームデスクがケチを付けた。 「しんた、お前は何を書いているんだ」 「『喫茶店』です」 「喫茶店はわかるけど、なんか、この文章は」 「新しい試みです」 「新しい試みぃ? そんなの必要ない!」
ペンネームデスクはSという名前だった。 ぼくは最初からこの男が気に入らなかった。 入社した当日、このSから、「しんた、お前は北九州弁丸出しだなあ。こういう業界にいるんだから、ちゃんと標準語で話せよ」と言われた。 じゃあ、彼が標準語を話しているのかというと、そうではなかった。 確かに、「〜しちゃってさ」などというSの言葉の使い方は標準語に近いものだったかもしれないが、彼には、彼の出身地である筑後地区独特のなまりがあった。 彼がぼくの北九州弁が気に入らないように、ぼくはSの筑後なまりの標準語に嫌味を感じていた。
ま、言葉はともかくも、元々ぼくとSは合わなかった。 性格が合わないというか、生理的に合わないというか。 とにかく、好かんもんは好かん、である。
もうひとつの原因は、Mさんがぼくを気に入っていて、ぼくがMさんを慕っていたというのがある。 そのへんをSはよく知っていた。 おそらく社長から聞いたのだろう。 しかし、このことが後々響くことになる。
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