数日前の話。 日記を途中まで書いて、急に眠たくなった。 もうどうしようもないので、日記は朝に書くことにして、とりあえず寝ることにした。 ところが、床についてからしばらく眠られずにいた。 「あの眠たさは何だったのだろう」 そんなことを考えていると、耳の中に「シーン」という音が広がった。 こういう状態になる時、決まって金縛りにあう。 ぼくは、そうはさせじと、力を振り絞って金縛りにかからないように踏ん張った。 が、無駄な抵抗だった。 場が変った。 体は動かずに、神経だけが、ピリピリと研ぎ澄まされていく。 目を閉じているはずなのに、周りの状況がわかる。 その時、ぼくの上を何かが通っていった。 通り過ぎた後の風が、ぼくの手に触れる。 「今のは何だろう?」と考えていた時、ぼくは肝心なことを思い出した。 息をしてないのだ。 いや、息が出来ないのだ。 胸筋に力を入れて息を吐き出そうと試みたが、出ない。 「このままでは死んでしまう」と思ったぼくは、下腹に力を込めることにした。 気管に空気が通るまで、しばらく時間がかかった。 「フーッ」 やっと鼻から息が漏れた。 すると、元の場に戻った。 ぼくは目を開けた。 いつもと変らぬ、寝室の風景が目に映る。
ぼくが金縛りにあう時はいつもこんな具合である。 しかし、今回のように、何かがぼくの上を通り過ぎるなどという体験は初めてである。 息が出来ないことを考え合わせてみると、あれは死神だったのかもしれない。
ぼくは、死神から何度か命を狙われたことがある。 最初にぼくの前に現れた死神は、からし色の袈裟を着た、ドクロだった。 彼は、そのへんにいた死霊を集め、ぼくをその世界に誘い込もうとした。 ぼくは般若心経を唱え、必死に抵抗した。 すると、金縛り状態は解け、いつもの場に戻った。 しかし、場に戻った時、呼吸は乱れ、心臓は高鳴っていた。 金縛りに合っている最中、おそらくぼくは死んでいたのだろう。
よく、霊を見たという話を聞く。 しかし、その話を聞いた時、ぼくはいつも疑っている。 なぜなら、霊といういうものは肉眼で見えるものではなく、心の目で見えるものであるからだ。 ある専門家は、「幽霊を見た時、あなたは一時的に死んでいるのだ」と言っていた。 つまり、同じ次元でないと、物事は見えないということである。 幽霊と同じ次元といえば、死後の世界である。 死後の世界が見えるということは、その人は死んでいるということになる。
「何か白い影が見えた」 いったいどの目で見たのだろう。 肉眼で見たというのなら、残念ながら、それは目の錯覚である。 ただ疲れているだけである。 本物の幽霊を見たいのなら、一度死んでみるがいい。 そのへんにウヨウヨしているはずだから。
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