頑張る40代!plus

2003年08月11日(月) 偉大なる復活 後編

ところで、今回どうして再びボブ・ディランにはまったのかというと、そのアルバムの弾き語り3曲を聴いて、痛く感動したからである。
その3曲とは、『くよくよするなよ(DON'T THINK TWICE,IT'S ALRIGHT)』『女の如く(JUST LIKE A WOMANN)』『イッツ・オールライト・マ(IT'S ALRAIGHT MA -I'M ONLY BLEDING)』である。
どの曲も、アコースティック・ギター一本の弾き語りで、1曲目と3曲目にはハーモニカも入っている。
力強い声でガンガンやるもんだから、つい引き込まれてしまったのである。
それまでは、『我が道を行く(MOST LIKELY YOU GO YOUR WAY -AND I'LL GO MINE)』や『ライク・ア・ローリング・ストーン』などのザ・バンドをバックに従えた派手な歌ばかり聴いて、どちらかと言うと地味な弾き語りはあまりよく聴かなかった。
聴いてみると、実に凄い。
マイクに向かって力強く怒鳴っているという感じだ。
それがかっこよくもあり、心地よくもある。
やはり弾き語りというのは、こういう攻撃的なものであるべきだ。

当時アメリカではウォーターゲート事件が問題になっており、時のニクソン大統領の進退が取りざたされていた。
そういう時期に、ディランが『イッツ・オールライト・マ』という歌の中で「アメリカの大統領でさえ、時にはどうしても、裸で立たなくてはならない」とやったものだから、満員の観客は大いに盛り上がった。
これぞ、『風に吹かれて(BLOWIN' IN THE WIND)』他、数々のプロテストソングを作ったディランの真骨頂だろう。

ところで、この『イッツ・オールライト・マ』であるが、ぼくはこの曲を長い間好きになれなかった。
その原因は曲や歌詞にあるのではなく、レコードについている歌詞ブックの訳詞にあった。
だいたいディランの詩の和訳は、わけのわからないものが多いのだが、それなりに格調はある。
ところがこの「IT'S ALRAIGHT MA」の訳だけは違った。
全体的には、いつもながらの格調あるわけのわからない訳なのだが、歌詞の中にある「IT'S ALRAIGHT MA」という言葉の訳が、その格調を台無しにしてしまっているのだ。
「それでいいんだ、おっかさん」である。
たしかに間違った訳ではない。
が、アメリカの大統領まで登場するこの詩のイメージに、「おっかさん」は合わない。
もしかしたら、訳者はウケを狙ったのかもしれないが、ディランの詩でウケを狙おうなんて、もってのほかである。
その「おっかさん」一言のために、長い間、ぼくはこの曲が好きになれなかったのである。

そういえば、ビートルズの『ビートルズがやってくるヤァ!ヤァ!ヤァ!(A HARD DAY'S NIGHT)」でも、気に入らぬ訳詞を見たことがある。
元々この曲名を『ビートルズがやってくるヤァ!ヤァ!ヤァ!』としていること自体気に入らないのだが、それにもましてその訳はひどかった。
細かい訳は忘れたが、冒頭の「It's been a hard day's night」の訳だけはしっかりと覚えている。
「我本日疲れたり」である。
勘弁してほしい。
あの曲を聴いて、訳者以外の誰が「我本日疲れたり」という言葉を思い浮かべるだろうか?
そう、イメージが合わないのだ。
しかもこういう文語で始めるのなら、ずっと文語で通せばいいものを、その後は安易な口語に変わっているのだ。
それも低俗な流行り言葉まで使っていた。
全世界を魅了したビートルズも、これでは台無しである。
おそらく訳者は、「我本日疲れたり」を考えついた時、「やったー!」と小躍りしたに違いない。
しかし、こういう表現は一歩間違えると、センスや教養を疑われる結果となる。
余計なお世話かもしれないが、もっと勉強してもらいたいものである。


 < 過去  INDEX  未来 >


しろげしんた [MAIL] [HOMEPAGE]

My追加