30年近く前のライブ盤にはまっている。 ボブ・ディランの『偉大なる復活(Before The Flood)』というアルバムで、1974年の全米ツアーから収録したものである。 1971年のバングラデシュコンサート以来、久々のディラン登場とあって、日本でもかなり話題になった。 当時の主だった日本のミュージシャンも、そのライブを見ての感想を、音楽雑誌などに載せていたものだった。
ぼくがこのアルバムを初めて聴いたのは、高校2年(74年)の夏休みだった。 7月の終わり頃に、ぼくは親しい友人たちと鹿児島・宮崎の旅行に行ったのだが、その旅行から帰ってきた日だった。 1週間近く閉めきっていた部屋の窓を開けた時、たまたまかけていたラジオから、聞いたことのある歌が流れてきた。 『ライク・ア・ローリング・ストーン』だった。 オリジナルとアレンジが違うし、オリジナルを歌った頃のディランのか細い声とは違い太い声なので、最初は誰が歌っているのかわからなかった。 曲が終わった後で、「ボブ・ディランのニューアルバム『偉大なる復活』から、『ライク・ア・ローリング・ストーン』をお届けしました」というDJの声。 それでようやくボブ・ディランとわかった。 ディランはよく声を変えるので、それのごまかされたわけだ。
ディランが声を変えるといえば、1969年に出した『ナッシュビル・スカイライン』というアルバムで、突然、それまでのしわがれ声から透明感のある美しい声に変わったことがある。 その後、彼は人の歌ばかり歌った編集アルバムを出すのだが、そのアルバムに入っている声は、美しい声だった。 ぼくがボブ・ディランを聞き始めた頃、FMでボブ・ディランの特集を1週間やったことがある。 ぼくはラジカセで、最初からその番組を録音した。 3回くらいまでは初期から中期の、しわがれ声の歌ばかりやっていた。 ところが、4回目の始まりと同時に、プレスリーの曲が流れ出した。 透明感のあるいい声の人が歌っているのだが、まったく知らない人の声である。 番組を間違ったと思って、ぼくはラジカセの録音ボタンをオフにした。 そして新聞の番組欄を見た。 「おかしいなあ」 たしかにボブ・ディラン特集になっている。 しばらくして、DJが「ディランの新しい声をお聞きいただけたでしょうか?」と言った。 「何、ディランは声を変えたのか!?」 その時初めて知った。
声もそうだが、歌い方もよく変えている。 全米ツアーの前年、ディランは『ビリー・ザ・キッド』という映画に出演して、同タイトルのサントラ盤を発表している。 その中に収録された『天国への扉(NOCKIN'ON HEAVEN'S DOOR)』は大ヒットした。 その時は、生ぬるい歌い方だった。 ところが、一年後の全米ライブでは、気合いが充分に入った歌い方になっている。 後に、音楽評論家がディランのライブを見て、「ディランに叱られた」というような表現をしているのを、ある本で読んだことがあるのだが、そういう人を叱るような歌い方をしたのは、この全米ツアーが最初だった。
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