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2003年08月04日(月) 死神のいる会社

ぼくは11年前に転職して今の会社に入った。
前にいた会社は家電の専門店だった。
今の会社でも同じ家電を売っているのだが、別に請われて今の会社に来たわけではない。
あれは、前の会社を辞めて2ヶ月ほどたった頃だった。
新聞を見ていると、今の会社の求人広告が出ていた。
そこで、藁をもつかむ思いで応募した。
面接では充分に自分を売り込むことが出来、面接官のあたりもよかったのだが、それまでのキャリアなどは一切考慮されなかった。
一からのスタートとなったわけだ。
それから11年、ようやく前の会社でもらっていたくらいの収入を得るようになったのである。
それでも、同世代の生え抜き社員の収入と比べると、かなり低い。

さて、今この会社に、3年前に倒産した某有名百貨店からの転職者が数人いる。
年齢はぼくと同じくらいか、それより上である。
彼らに対する会社の扱いは、なぜか格別なものがある。
入った時から、百貨店時代の役職をもらっている。
まったく同じ業種でもないのに、これは不自然である。
さらに驚いたことに、収入も百貨店時代と同じだという。
その額は、生え抜きの社員の収入の額よりはるかに多いと聞く。
なぜつぶれた会社から来た人間を、そこまで優遇しなくてはならないのか、とみんないぶかり、憤っている。

ある取引先の人から聞いた話だが、最近、行く店行く店に潰れた会社からの転職者がいるらしい。
そこの生え抜きの社員は、影で「死神」だの「貧乏神」だのと呼んでいるということだ。
その人がある店に行った時、そこの従業員が「また一人、死神が会社を潰しにやってきたんですよ」と言っていたそうだ。

そういえば、ある転職者から聞いた話だが、その人が前に勤めていた会社にいた時、その会社がある潰れた会社の営業課長を招聘したらしい。
ところが、その営業課長は新天地でも同じような戦略で会社を切り盛りしたという。
結局、その会社も潰したそうだ。
そういう例はけっこう多くあるらしい。
まさに「死神」である。

何ヶ月か前に、女子アルバイトが入った。
以前、あの倒産した量販店Sにいたという。
その子はSにいたことにプライドを持っているらしく、ことあるごとに「Sはこうやっていますよ」とか「Sではそういうことはやりません」などと、何かにつけSを引き合いに出すのだそうだ。
そのため、他の従業員からひんしゅくを買っている。
「ここは、ここのやり方があるんやけ」と言っても、あいかわらず「Sでは…」を繰り返すらしい。
ぼくは直接「Sでは…」を聞いたのではないのだが、もしぼくの前でそういうことを言ったら、「そういうやり方やけ、潰れたんよ」と意地悪く言ってやるだろう。

さて、問題は某有名百貨店からの転職者である。
会社は今、実質上彼らが牛耳っていると言っても過言ではない。
ところが、会社の厚遇も手伝ってか、あまりいい噂を聞かない。
彼らはいったい、どこにぼくたちを連れて行こうとしているのだろうか。
今後、もしぼくが転職をすることがあった時に、そこの会社の人たちから「死神」と呼ばれないようにしてほしいものである。


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