7月31日午前11頃だった。 後ろの方から「しんたさん、バケツ持ってきてっ!!」という声がした。 何事かと振り向くと、ぼくの売場の並びにある化粧品コーナーが大変なことになっていた。 天井のいたる所から水がジャージャーと、滝のごとくに落ちているのだ。 床は当然水浸しになっている。
ぼくは思わず外を見た。 先々週の大雨の時も、この売場はやられている。 その大雨の再来かと思ったのだ。 ところが、外は真夏の日差しがいっぱいに照りつけている。 「では、何の水漏れなのか?」 そんなことを考える暇はなかった。 自然とぼくの体は倉庫に向かっていた。 モップを取りに行ったのである。 改装前は、何度もぼくの売場が被害に遭っていた。 そのため、倉庫のどこに何があるかということは充分に把握している。 モップ、水切りモップ、ほうき、ちりとりなど、そこにあるもの全部を化粧品コーナーに持って行った。
それらの掃除用具を化粧品コーナーに置くと、ぼくは再び倉庫に走った。 化粧品コーナーの照明を切りに行ったのだ。 すでに照明器具の中に水が進入しており、蛍光灯がついたり消えたりしていた。 このままでは漏電してしまう。 ところが、配電盤のどこを切っていいのかわからない。 とりあえず、ここにレジの電源があるから、並びから言ってここだろうと、当てずっぽにスイッチを切ってみた。 が、外れだった。 他の売場の電気を消してしまった。 もう一度挑戦した。 今度は正解だった。
次にぼくは、こういう日のために用意しておいた秘密兵器、バキュームクリーナーを取りに行った。 昨年購入したこの機械は、雨が降るたびに水に浸るバックヤードで、その力を遺憾なく発揮した。 4月の改装で、ぼくの売場のバックヤードが閉鎖されたため、4ヶ月近くも男子更衣室のロッカーの上に眠っていた。 久しぶりの始動である。 ぼくは、けっこう重量のあるバキュームクリーナーを急いで下ろし、売場まで持って行った。 ところがここで困ったことが起きた。 コンセントがない。 いや、あることはあるのだが、水浸しになる可能性があるようなコンセントは使えない。 他の場所を探した。 3メートルほど離れたところに一つあった。 コードが足りるかと思ったが、さすがに緊急時用のクリーナーである。 かなり長いコードが付いている。 関係者、野次馬など、かなりの数のギャラリーが売場周りに集まっている。 ぼくは、そのギャラリー達の目の前で、「バキュームクリーナーの威力を見よ」とばかりにスイッチを入れた。 人々の目がバキュームクリーナーに集まる。 バキュームクリーナーは期待通りに水を吸い取る。 その感触が手に伝わる。 まさに快感である。
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