今日は飲み会だった。 いつもより早く仕事を上がり、一度家に戻ってから、黒崎まで飲みに出かけた。 久しぶりにタクシーを使ったのだが、料金は1200円程度だった。 11年ほど前、ぼくがよくタクシーを利用していたが、その頃は800円程度だった。 その差400円、つまり11年間で50%値上げしたということだ。 この値上げ率が普通なのか、はたまた高すぎるのかは知らないが、ぼくの収入はその間、10%もアップしてない。
タクシーを降り、会場である焼鳥屋までの道を急いでいると、前から実に幸せそうな顔をした兄ちゃんが現れた。 ニコニコしているのだが、ぼくはその中に不気味さを感じた。 口が忙しなく動いているのだ。 独り言でも言っているのだろうか、何か話している。 すれ違う時、その声が聞こえた。。 それは独り言ではなく、会話だった。 「それでお前はどうしたんだ?」 「・・・」 「ぼくはそうは考えないなあ」 「・・・」 「そうじゃないよ!」 いったい誰と話しているのだろう。 時々こんな人を見かける。 前に勤めていた店にも、この手の人がよくやってきていた。 その人はすごかった。 延々一人で会話しているのだ。 話の内容は、たわいない世間話から、政治や経済にまで及んでいる。 話しているかと思えば、突然怒りだし、「お前がそんなだから、おれは変な目で見られるんだ!」と見えない人に罵声を浴びせている。 かと思えば、「そうやろ。ははは」と仲直りしている。 きっと本人には相手がいるのだろうが、その相手が見えない周りの人は不気味がるばかりだった。
数年前のこと、取引先の人と談笑していた時に、突然その人が「はい○○です」と自分の名前を名乗りだした。 ぼくはあ然として、「どうしたんね」と尋ねたが、目はよそを向いている。 おかしいなと思い彼を凝視していたのだが、ほどなくその理由がわかった。 ハンズフリーである。 最近は見かけなくなったが、以前は車に乗っている時以外も、イヤホンマイクを使って携帯電話をかけている人を時々見かけたものだ。 彼もその一人だった。 彼の場合、少し髪が伸びていたために、そのイヤホンマイクが見えなかったのである。 電話が終わったあとで、「車に乗ってない時は、イヤホンマイクを使わないとか、髪を切ってそれが見えるようにしとかんと、変な人と間違えられるよ」とぼくは言った。 「おかしいですかねえ」 「おかしい」 と、前述の人の話をした。 彼も思い当たることがあったらしく、「そういえばそんなふうに見られたことがあった」と言っていた。
タクシーを降りてから、焼鳥屋までのわずか100メートルの道のり、ぼくは幸せ兄ちゃんを見て、そんなことを思い出していた。
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