さて、いよいよ薬局応援当日。 薬局のパートさんが一人で忙しそうにやっていた。 一人なので食事時間もまともにとれない。 時折ぼくは気になって声をかけたりしたのだが、何の役にも立たない。 これがもどかしい。 「食事とった?」 「いや、まだです」 「今すいとるけ、食べといで」 「いいんですか?」 「うん。見とくけ。万引き防止にしか役に立たんけど、おらんよりいいやろ」 「ははは。じゃあ、お言葉に甘えて…」
パートさんは「すぐに帰ってきます」と言って、食事に行った。 ぼくは「見てやる」と言った手前、薬局から離れられずにいたが、ぼくはぼくで、何部門かを持っている。 そのため、何度かお呼びがかかった。 行ったり来たりしていたわけだ。 そうこうしているうちに、薬局のパートさんは帰ってきた。 その間20分もかからなかった。 「ありがとうございました。もういいですよ」 「え、早いやん。もう少しゆっくりしとき」 「いえ、もういいですから」 ということで、ぼくは自分の持ち場に帰った。
それから1時間、何事もなかったので、「もう大丈夫。そろそろ食事に行くか」と思った矢先だった。 そのパートさんが、慌ててやってきた。 「ちょっと来て下さい」 「え、どうしたん?」 「酔っぱらいのおいちゃんが、陶陶酒を…」 酔っぱらいのおいちゃん… 久しぶりに聞く名前である。 陶陶酒… そういえば、今日は薬局の前で、陶陶酒の試飲会をやっていた。 「え? 酔っぱらいのおいちゃんが?」 「ええ、さっきから陶陶酒のところに居座って、何回も陶陶酒をお代わりするんです」 ぼくはすぐに試飲会の場所に行った。 おいちゃんがいた。 おいちゃんはぼくを見つけると、 「お、大将、久しぶりですなあ」 と言った。 「おいちゃん、こんなところで何しよると?」 「いや、ここの係の人が『飲んでくれ』と言うもんで…」 「『飲んでくれ』と言われて、何回も飲みよるんね?」 「はい、そうですたい。おいしいですけなあ」 「おいちゃん、あんたこれ薬やないね。何回も飲んだら逆効果になるんよ。また寝小便たれたらどうするんね?」
おいちゃんは『寝小便』という言葉に敏感に反応した。 この日記に何度も書いているように、酔っぱらいのおいちゃんは酔っぱらうと、大声を出し、あげくにベンチの上で寝てしまうのだ。 寝たら最後、寝小便するまで起きない。 ぼくは何度も、このおいちゃんの小便の後始末をしている。 おいちゃんもそのことを知っている。 だから、ぼくが「寝小便」という言葉を口にすると、寝小便をたれたガキのようにシュンとするのだ。
「あ、今日から相撲が始まるんでしたなあ。うん、早く帰らんと。じゃあ、大将、失礼しまーす」 酔っぱらいのおいちゃんは、そう言い残すと、さっさと帰っていった。 ぼくはパートさんに「帰らせたよ」と報告してから、食事に行った。
今日は、パートさんは6時までの勤務だった。 そのため、6時以降は売場に係員は誰もいなくなった。 ま、よくしたもので、それから閉店までお客さんは、ほとんどこなかった。 8時になり、ぼくは昨日先生から言われたとおり、保冷庫の電源を切りシャッターを下ろした。 昨日からずっと気になっていたので、やっと安心できた。
|