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2003年04月29日(火) 吉祥寺

区内の、高倉健の実家近くに吉祥寺(きっしょうじ)という浄土宗のお寺がある。
藤で有名なところで、毎年この時期になると『藤まつり』を催している。
参道に出店が出るなどして、たくさんの人出でにぎわっている。

吉祥寺の藤まつりの頃になると、いつも思い出すことがある。
それは、10年ほど前、この祭に行った時に思わぬ人を見たことである。

ぼくはそれ以前にも、何度かこの祭に行ったことがあるのだが、いつものように人通りの多い狭い参道を歩いていた。
すると突然、後ろのほうで、「こらー、○○!!お前は…」という怒鳴り声が聞こえた。
どうも子供を叱っているようだった。
まあ、子供を叱るくらいは日常茶飯事のことで、大したことはないのだが、ぼくはその声に思わず振り返ってしまった。
なぜなら、とにかく声が太いのだ。
しかも、その声は女性のそれである。
その声を聞いて、どんな人なんだろうと興味をそそられた。
きょろきょろと周りを見回すと、おそらくその声の持ち主だろうと思われる人がいた。
とにかく背が高い。
周りにいる人より、頭一つ出ていた。
しかも、体格がいい。
『おそらくこの人だろうな』と思っていると、その人が口を開いた。
ドスのきいた低い声。
まさにその声の持ち主であった。

ぼくは、一緒に祭に行っていた友人に「凄いのう、あのおばさん」と言った。
すると友人は、「おい、あの人…」と言った。
「あのおばさんが、どうかしたんか」
「あの人、横山樹里ぞ」
「横山樹里?」
「おう」
横山樹里といえば、元女子バレーボールの日本代表だった人だ。
「まさかぁ、樹里はあんなデブやなかったやろうもん」
「いや、引退してからデブになったらしい」
そういえば、横山樹里もこの吉祥寺の近くに実家があるのだ。
ここにいても別におかしくはない。
しかし、ぼくは半信半疑だった。
あのおばさんの顔と、テレビで見ていた樹里の顔とが、どうしても結びつかなかったのだ。

しばらくして、その半信半疑に終止符を打つ時がやってきた。
ローカル番組で、あるママさんバレーチームの紹介をやっていた。
そこに、吉祥寺で見た、あのおばさんがいたのだ。
レポーターが言った。
「この方をご存じの方も多いと思います。元全日本のエースアタッカー、○○樹里、旧姓横山樹里さんです」
「こんにちはー」
ドスのきいたあの声である。
やはり、あのおばさんは横山樹里だったのだ。
しかも、あの時よりもさらに肥えていた。
その後樹里は、ビートたけしのトーク番組に出て、たけしからさんざんからかわれていた。
もちろん、その体型について突っ込まれていたのだ。

さて、今日は藤まつりの最終日だった。
「今年もあの人は行ったのだろうか」
と、ぼくが横山樹里を思い出す季節になった。
いよいよ初夏である。


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