頑張る40代!plus

2003年04月20日(日) 想い出に恋をして

古いノートに、送る宛のない手紙の下書きを見つけた。

「風の噂で、君が三児の母親だということを聞きました。
21歳の時、ぼくは覚悟していたのです。
だから、それを聞いた時、それほどのショックは受けませんでした。

まあ、そんなことはどうでもいい。
21歳の頃、ぼくは思ったものです。
「本当に君が好きなのだろうか」と。
確かにあの頃に作った歌や詩は真実です。
おかげで、ある程度自分を発見できたのです。
だけど、あの頃思ったものです。
「本当に君が好きなのだろうか」と。
「好きだっただけではないのだろうか」と。

お互い、今年で29歳になりますね。
この8年間、ぼくは疑問を持ってきました。
愛というのは特別なものではなく、その生活の節々が愛なのだということは、何となく理解できるようになりました。
だけど、あの時持っていた「本当に君を好きなのか」という疑問には、いまだ答えることが出来ません。
あの頃と同じで、いつもぼくは、何ものにも縛られたくない、という気持ちを持っています。
だから誰彼に教えられるのを拒み、自分なりにいろいろな勉強をしてきたつもりです。
だけどぼくには解りません。

君を好きだったのかという疑問は、大変深いものだと思います。
君を好きだったんだ、と言うことは簡単です。
否定するのも簡単です。
「君を好き」というのは、ぼくにとっての啓発の手段だったのか。
それもぼくには解りません。
今になっては何も解らない。
ただ解っているのは、ぼくは18歳までの君しか知らないということ。
ただそれだけです。」

29歳の時、友人から「○恵、三人目を生んだらしいぞ」という話を聞いた。
「○恵」とは、ぼくが高校時代からずっと好きだった子のことである。
高校を卒業してからその時まで、ぼくの中では音信不通だった彼女の近況報告であった。
下ネタ好きのその友人に、「じゃあ、最低3回はやったんやろう」と茶化しておいたが、内心は複雑だった。
なぜなら、ぼくの中で彼女のことが終わってなかったからだ。
さすがに、その時には、もう『好き』という感情はないに等しかった。
では、何が終わってなかったのか。
それが、21歳の頃に抱いていた疑問である。
その疑問とは、
「今、本当に彼女のことを好きなのだろうか。もしかしたら、あの頃の『好き』を今に引きずっているだけのことじゃないのだろうか」
ということである。

ぼくは人を好きになった時、「いったい、いつから好きになったのだろう」と、いつも自問している。
しかし、その答は出てこない。
わかっているのは、「その人と出会ってから後のことだ」ということだけである。
同じように、その『好き』から冷めた時期というのも、よくわからない。
しかし、その場合は「その人と会わなくなってから後のことだ」と言い切れないからややこしい。
21歳の頃、ぼくは初めてそのことに気がついた。
で、「ぼくは、本当に今でも彼女のことが好きなのだろうか」という追求が始まった。

それから2年後に、ぼくはこういう詩を作っている。

 『想い出に恋をして』

 メルヘンの世界に 恋しては
 ため息をつきながら 扉を右へ
 行き着くところもなく ただひたすら
 影が見える公園へと 続いて

 帽子をかぶった 小さな子供たち
 楽しそうに 何かささやいて
 ひとつふたつ パラソル振って
 空の中へ 向かっていく

  明日は晴れるといいのにね
  小さな雲に映った夕焼けが
  君たちのしぐさを見守っているよ
  そのうちにパラソルも消えて

 悲しいのは 今じゃない
 想い出にこだわる ぼくなんだ
 気がついてみれば 君を忘れ
 ただつまらぬ 想い出に恋をして

結局は結論が出ず、『想い出に恋をして』いることにしたわけである。

だが、疑問は終わってなかった。
それが、冒頭の下書きである。
しかし、この下書きを書いたことで、ぼくはそういう疑問から解き放たれた。
なぜなら、この文章にあるひとつの事実を発見したからだ。
それが、『ぼくは18歳までの君しか知らない』ということである。
確かにそのとおりで、ぼくがその人に接していたのは18歳までだった。
それから後は会っていない。
もちろんそういうことはわかっていた。
が、わかっていたから、そういうことに目を向けなかったのだ。
文章を書いたあと読み返してみると、ここの部分が胸に突き刺さった。
「ああ、あの時点で終わっていたのか」
ようやく、ここでぼくの疑問は解けた。
おそらく、ぼくの深層心理はこの結論を知っていたのだろう。
だから、ぼくに『想い出に恋をして』を書かせたのだろう。

かつて好きだった人に再会した時、なぜか心がときめくものである。
そして、「え!? おれ、まだあいつのことが好きだったんだ」と思う。
そう、まだ好きなんですよ。
想い出が。


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